愛してるの期限が切れる前に

「お待ちくださいっ。確かに玲桜は利益向上に貢献したでしょう。ですが、長年あなたに仕えてきた私のは私です。アジアの開拓も私がしました! それに玲桜は、とある女性に無体を働き、子どもを産ましております。そのような者が鳳グループの総帥になるのは不適切ではありませんか。どうかお考え直しくださいっ」
「黙れ、たわけ者が。その件ならすでに解決しておる。世間からは純愛だと受け入れられておるようだ。お前はアジアの開拓に何年かかった? 玲桜は四年で鳳グループの収益を二割も向上させたのだぞ。頂点に立つ者としては、お前は小者だ。これまでどれか一つでも玲桜に勝ったものがあったか? 玲桜というよき粒を産ませたことだけは褒めてやろう。種馬としては優秀じゃった」

 後生に種を残すことしか価値がないと言われた駿は、羞恥と屈辱で震えていた。

「駿、わしからの最後の任だ。お前にはヨーロッパへの出向を命ずる」
「そんな――っ」
「励めよ。以上だ、皆のもの、大義であった」

 総帥の言葉に、一同が立ち上がって一礼する。
 それが祖父が総帥としての最後の雄姿だった。
 役員会を終えた玲桜が別室の扉を叩くと、祖父がソファでくつろいでいた。

「ありがとう、祖父さん」

 祖父の向かいの席に座った玲桜は、ネクタイを緩めた。

「なに、お前との約束じゃったからの。総帥を引き受ける条件が惚れた女との結婚など、なかなか一途なことだ。だが、残念なことにわしは嫌いじゃないからなぁ。わしの若い頃そっくりじゃよ、お前さんは」
「また祖母さんとのろけ話か? 耳ダコだよ」

 鳳グループの最上階に位置するこの部屋は見晴らしはいいが、心なしか酸素も薄き気がする。
 しかし、老体にもかかわらず祖父は疲労感もなく、満足そうに大好物のカステラに舌鼓を打っていた。

「あれをヨーロッパに飛ばしていいのか?」