愛してるの期限が切れる前に

 玲桜がSNSに初めて自撮り以外の写真を投稿した日は、トレンドに入るくらい話題となった。普段は無表情な彼の笑顔に、撮影者は誰なのかと憶測が飛び交う中、これまで玲桜の恋人を自称してきたリリアが、「可愛く撮れてるでしょ」とコメントをしたことで、いよいよ玲桜とリリカの結婚に期待が高まった。
 しかし、玲桜がSNSを通じて、百花との入籍と、百花へのひとかたならぬ愛情を公表したことで、リリカは世界一幸せな婚約者から、世界一可哀想な女へと成り下がった。


 玲桜は熊谷を連れて、鳳グループ本社の門をくぐった。
 ロビーに入ると、誰もが玲桜に頭を下げていく。
 直通エレベーターで向かった先は、臨時役員会が開かれる会議室だ。重厚な絨毯を歩き、扉を開けば、すでに玲桜と総帥をのぞく全員が揃っていた。総帥が座る席の右隣には父である駿が何食わぬ顔で腰かけている。
 駿は玲桜を見るなり、わずかに眉を顰めた。
 一瞬目が合うも、玲桜はそれを無視した。
 最後に総帥である祖父が、悠然と入室した。御年八十になってもその堂々とした振る舞いには威厳がある。一同が一斉に立ち上がり、頭を下げながら総帥を迎え入れる。
 席に着いた総帥が「座れ」と手を振った。

「わしは老いた」

 かつては豪傑と呼ばれた男が、自らの老いを口にした。その弱音こそ、引退を意味していた。

「玲桜、わしの後釜はお前だ」

 そう言って、総帥が玲桜に視線を向けた。

「お前が鳳グループを背負うんじゃ。気張れよ」

 総帥の言葉に、役員からは拍手が起こったときだ。