愛してるの期限が切れる前に

 言葉足らずのところはあっても、百花に対しては誠実だった。
 どのみち、玲桜が戻ってこないことには話しもできない。一人で悶々と考えたところでろくな結論などできないこともわかっていた。
 花に頑張ったご褒美として、買ったばかりのお菓子の小袋を渡してマンションへ戻る。
 二人でお昼を食べて、花を昼寝させ終えて一階に下りてきたときだった。
 直通エレベーターの扉が開くと同時に、東京に行っているはずの玲桜が部屋に飛び込んできた。

「もも!!」

 目視で玲桜を確認したときには、玲桜に抱きしめられていた。

「ごめんっ」

 彼が仕事を切り上げてでも帰ってきた理由なんて、一つしか思い浮かばない。

「仕事は?」
「抜けてきた。ももの一大事に駆けつけられないなら仕事なんてしなくていい」

 まったく社会人の風上にも置けない発言には、呆れてしまう。
 百花は傾国の美女になるつもりはないのだ。
 仕事に戻れ。そう言うのは簡単だが、抱きしめている玲桜の身体が震えているのだ。

「玲桜のお父さんに会ったよ」
「――っ、俺は別れない」

 一を言えば、十を理解する玲桜の察しのよさには舌を巻く。
 玲桜の脳裏にも、四年前の後悔が再現されているのだろうか。
 百花が辛いときに駆けつけられなかった悔しさを上書きしようとしている。そう思えてならなかった。

「あなたのために身を引けって言われたわ。婚約者がいるんですって」

 驚くほど落ち着いた声が出た。
 玲桜は一瞬怪訝な顔をするも、すぐに否定した。

「そんなのはいない。婚約なんて誰ともしていない。聞いて、もも。過去に戻れるなら、――時間を巻き戻せる魔法が使えるなら、今度は絶対に間違えない。あの日の朝、ももに愛してるって伝えるよ」

 自分には、この綺麗なモルフォ蝶を捕まえることはできない。
 そう思ってきた。
 けれど、それは百花の思い込みだった。