愛してるの期限が切れる前に

 愛の順位には期限がある。
 百花の中で玲桜が一番ではなくなっても、彼を想う気持ちが目減りしたりはしないのだ。
 花を抱きしめる腕が震えていても、まっすぐ鳳を見据えて、そう言い切った。
 鳳は、苛立ちを露わにしながらすぅっと目を眇めた。コーヒーカップを持つ手がかすかに動いたのを見るなり、百花は花を庇うように抱き込んだ。
 だが、想像していた熱は襲ってこなかった。
 おそるおそる鳳を見遣ると、彼の額には血管が浮き出ていた。いまいましそうな表情は不機嫌さを隠そうともしていない。

「後悔するぞ」
「それでもいいです」

 また誤解を生むより、ずっといい。
 困難にぶつかっても、そのたびに話し合って解決策を見つけたい。玲桜とならそんな関係ができそうな気がするのだ。
 鳳は、百花に従う気が無いと知ると、茶封筒を持って荒々しく店を出ていった。

(よかった――)

 今回はコーヒーをかけられることもなく、心配していた誘拐もされなかった。

「ごめんね、はーちゃん。お家に帰ろうか」

 テーブルに残ったままの注文書を手に取り、三人分の会計をしてから外に出た。

(婚約者か。リリカさんのことなのかな?)

 玲桜は百花にずっと片想いをしていて、百花を愛していると言ってくれた。
 相変わらず外は蒸し暑いが、心は少しだけ晴れ晴れとしていた。
 それに満足して、彼女との関係について玲桜の口から聞いていなかった。

(詰めが甘いなぁ)

 大事なことなのに、忘れるくらい玲桜との時間が心地よかった。

(もし、事実だと言われたら?)

 婚約者いながら百花と結婚した玲桜を、自分は不実だと責めるのだろうか。
 リリカからすれば、百花は泥棒猫に他ならない。訴えられても文句は言えない立場なのだ。
 でも、果たして玲桜がそんなことをするだろうか。
 少なくとも百花の知る玲桜なら、考えられない愚行だ。