愛してるの期限が切れる前に

「次の臨時総会で現総帥が勇退する。後継には玲桜を指名することが決まっている。その前に身辺整理をする必要があるんだ。わかるね。付け入る隙を作ってはいけないんだ。あれは君に話していないのかい? 婚約者はちゃんといるんだ」

 婚約者という言葉に、一瞬強ばった。

「あれの隣に並んでも見劣りしない素晴らしい女性だ。君のような庶民とは違い、同じ上流階級に生きる女性の方が価値観も釣り合うと思うだろう?」
 価値観の違いは、なんども百花も感じてきたことだ。
 痛いところを突かれて、百花は唇を噛みしめた。その様子を見て、鳳がしたり顔になって言葉を続けた。

「あれの側にいるということは、一生身の危険を感じながら生きていくということだ。失礼だが、君からはその覚悟は感じられない。君にはあれより優先させたい存在があるはずだ」
「ままぁ」

 大人の話し合いなど、子どもにはつまらないだけだ。
 ぐずり始めた花に、鳳は舌打ちした。
 話の腰を折られて面白くないのだ。
 鳳の口調は、玲桜を案じるふうではあるが、言うほど子どもに関心がないのが態度で透けて見える。
 百花にはなによりも優先させたい存在がいる。危険が及ぶと言われれば、選べる道は一つしかない。――そう今までの自分なら思っただろう。

(あのときの再現をしているみたい)

 リリカに玲桜から離れるよう要求されたとき、百花は玲桜を信じてそれを拒み、そして玲桜に失望した。
 あのとき、困難から逃げるのではなくぶつかっていたら、別の未来があったのだ。
 玲桜と花の誕生を一緒に喜ぶ未来もあったはずだ。
 だから、今度は間違わない。

「わかりました」

 百花の返答に、鳳が満足そうに頷いたが、百花が続けた言葉に表情を崩した。

「が、私の一存では決断したくありません」
「なに?」
「玲桜とのことは、二人で決めます。あの人の気持ちを無視したくありません」