愛してるの期限が切れる前に

 判断に迷うが、百花の選択が花の安全に繋がるのだ。

(怖い)

 けれど、もう逃げるのは嫌だった。

(頑張れ、頑張れ)

 なんども心の中で自分を鼓舞して、百花は覚悟を決めた。

「では、あそこでお伺いします」

 百花が指定したのは、やはりマンションから近い場所にある喫茶店だ。鳳は店を一瞥すると、「かまいません」と頷いてくれた。
 警戒しながら百花は花を連れてその喫茶店までついて行く。店内に人はおらず、百花たちの貸し切り状態だった。
 四人掛けのボックス席に百花と花が並んで座り、向かい側に鳳が腰を下ろした。通路を挟んだ向かいの席に男が二人、入り口の席にも続けて男が席に着いた。彼らが玲桜のつけてくれた護衛なのだろうか。それとも、鳳の護衛なのかもしれない。
 店員に百花はオレンジジュースを二つ頼むと、鳳はコーヒーを注文した。待っている間十、足が震えていた。そんな百花に鳳が笑みを向け続けていたが、目は少しも笑っていなかった。
 店内には落ち着いたクラシックが流れている。

「ままぁ」
「ん? なぁに? もうすぐジュースくるからね」
「じゅーちゅ?」

 花を不安がらせないよう表情を作るのに必死だ。
 注文が揃うのを待って、鳳が口火を切った。

「どうか玲桜から身を引いてくれないか」

 そう言って、鳳は深々と頭を下げた。

「これは君のためでもあるんだ」

 そう言って、鳳はテーブルに茶封筒を置いた。

「中に私名義の通帳とカードが入っている。君の子どもが成人するまでは苦労しない額のはずだ。これで、あれの人生から出ていってもらえないか」

 差し出された手切れ金を、百花は黙って見ていた。
 オレンジジュースを飲みにくそうにしていた花を膝に乗せ、ストローを咥える手伝いをした。

「はーちゃん、ゆっくり飲もうね」