愛してるの期限が切れる前に

 玲桜に儚げな雰囲気を纏わせると、彼みたいになる。玲桜よりも一回り細い体躯にダブるのスーツを着ている。身長は玲桜と同じくらいだろうか。襟足の長い薄茶色の髪をしたその人の瞳は、黒かった。
 なぜこのタイミングで声をかけてきたのだろう。
 動揺から胸がどきどきしている。
 玲桜から父親との確執を聞いているだけに、なにかされるのではないかとひやひやしていた。
 この居心地の悪さには、既知感がある。
 モデルのリリカに待ち伏せされたときも、こんな感じだった。

(どうしよう、玲桜に伝えた方がいいのだろうけれど)

 鳳の前で玲桜に連絡を入れるわけにもいかず、百花はちらりと辺りに視線を流した。
 この状況を護衛が見ているなら、彼が玲桜に連絡を入れてくれるはずだ。

「ぜひあなたと話がしたいと思いまして。お時間は取らせません」

 ただ、リリカと違うのは、彼女は鳳ほど柔らかい物腰ではなかったことだ。

(玲桜と別れろ、って話なのかな)

 この雰囲気からして、おおよその展開の予想はつく。
 ほんの少しの外出のつもりだったのだ。
 こんなところで玲桜の家族に会うことを想定していなかった百花は、どう対処していいかわからなかった。

「あ、の……、今はちょっと」

 それでも、このままついていくのはまずいことくらいはわかった。
 ベビーカーを身体の横に寄せながら告げると、鳳が「おや?」と肩を竦めた。

「息子からなにか聞いているのかな? 大丈夫、私は彼の肉親だよ」

 それが危険なのだ、とは言えなかった。
 逃げ出したいのに、花を連れてではたやすく追いつかれてしまうだろう。

(誘拐――ではないのかな?)

 百花の思う誘拐は、突然車に連れ込まれて拉致されるものだ。
 こんなふうにひと目があるところで堂々と声をかけてきたのなら、鳳にその意志はないという現れではないのか。