愛してるの期限が切れる前に

 マンションを出ると、アスファルトからの地熱であたりはむっとしていた。百花は、ベビーカーにつけたハンズフリーの扇風機の角度が、花にきちんと当たっているかを確認してから、ドラッグストアへ歩き出した。
 予想通り十分ほどでついた店内は一転して涼しく、吹き出た汗が引いていく。

「はぁ……、涼しい。さてと」

 カゴをベビーカーに取りつけたフックに引っかけて、必要な物を選んだ。
 ベーキングパウダーと生クリームだけでいいが、ついいろいろと見て回りたくなる衝動に駆られてしまうのは、どうしてなのだろう。

「はーちゃん、なにかほしいのある?」
「ない――」

 花は、買い物に行っても滅多と物を欲しがらない。

「おやつは? えびのお菓子だよ?」

 百花も昔から食べているエビ味のスナックの子ども用だ。

「うーん、たべる」
「だよね」

 小袋が繋がっているそれもカゴに入れて、レジに向かう。三個しか買わなかったので、鞄に入れてしまえばいいのだが、出かける前に花と約束した手前、一応伺いを立てた。

「はーちゃん、歩く?」

 だが、ベビーカーの乗り心地が気に入ったのか、花は帰りも運んでもらうことを望んだ。

「そっか。ではお家に帰ります」
「まーす!」

 また暑い中を歩くのだ、と気合いを入れて外に出たときだ。

「水島百花さんですか?」

 目の前に見知らぬ男が立った。

「――っ!!」

 久しぶりの二人きりでのお出かけで、完全に気持ちが以前に戻っていた。油断していたところに声をかけられ、百花が飛び上がるほど驚いた。

「突然、声をかけて申し訳ない。私は鳳駿(おおとり しゅん)。玲桜の父親です」
「え、あ……玲桜――さんの。は、初めまして。水島百花です」

 慌てて頭を下げると、鳳は穏やかに微笑んだ。

(この人が玲桜のお父さん。言われれば雰囲気あるかも)