好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる

車が地下駐車場を出る。
後部座席に身体を預け、窓の外へ視線を向けた。
助手席の小明から声がした。

「今天出来参加会议,还不错吧?」
(今日、出てみてよかったでしょ?)

その言い方。
笑えてくる。

「我明白你之前说的意思了」
(前に君が言ってた意味がわかったよ)

珍しく、小明が「この会議には出た方がいい」と言って、俺の予定を調整していた。
小明が満足そうに笑う。

「VERA的宫本小姐,在圈子里口碑很好。听说她很有能力」
(VERAの宮本さん、業界での評判がいいの。有能だって聞いたわ)

「有能力?」
(有能?)

「你今天也看到了吧?她不会只把你们这些演员当成一个‘商品’」
(今日見てわかったでしょう? 彼女はあなたたち俳優を、ただの「商品」として扱わないの)

今日の奈緒を思い出す。
俺自身は、どうしたいのか。
そう聞いてきた。

「她会尊重演员本人的想法,也会尊重我们这边的意见」
(俳優本人の考えも尊重するし、私たち事務所側の意向もちゃんと尊重してくれる)

小明は少し笑った。

「但有意思的是,她又很少跟品牌发生冲突」
(でも面白いのが、それでいてブランド側とはあまり衝突しないのよ)

今日も、そうだったな。

「TOVEN不是一直跟VERA合作吗?可之前跟我们对接的不是她,我就有点好奇,特意问了一下」
(TOVENはずっとVERAに依頼してるでしょう? でも、これまでの担当者は彼女じゃなかったから、気になって聞いてみたの)

「结果这次的粉丝见面会和新广告,刚好都由她负责。算我们运气好」
(そしたら、ちょうど今回のファンミーティングと新CMは彼女が担当するって。私たち、運がよかったわ)

運がいいって。

「你还特意去问了?」
(わざわざ聞いたの?)

「当然」
(もちろん)

得意げな声が返ってくる。

「确实挺厉害的」
(確かに、仕事はできるね)

小明が振り返った。

「只是工作厉害?」
(仕事ができるだけ?)

「不然呢?」
(他に何があるんだよ)

小明は笑って、前へ向き直った。
俺も窓の外へ視線を戻す。

仕事ができるのは、よくわかった。
でも、頭に浮かぶのは、会議後の奈緒だった。

あんなに堂々としていたのに、長く息を吐いていた。
思い出して、また笑ってしまった。