好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる

――凱――

会議が終わった。

ふと、正面を見る。
奈緒はまだ席にいた。

俺も立ち上がろうとした、そのとき。
奈緒が長く息を吐いた。

……ん?

緊張してたのか。

思わず笑いそうになった。
会議中は、まったくそんなふうに見えなかった。意見がぶつかっても落ち着いていたし、俺に質問したときも、まっすぐこちらを見ていた。

むしろ、こういう場が好きな人なんだろうと思っていた。

……好きなのは、たぶん本当か。

でも、緊張もしてたんだな。

奈緒が顔を上げた。
目が合う。

あ。

見られた、って顔だ。
すぐにいつもの笑顔に戻った。

でも、遅い。
もう見た。

思わず口元が緩む。
奈緒も苦笑している。

小明が奈緒に近づいた。

「刚才辛苦了。今天控场控得很好」
(お疲れさまでした。今日の進行、とてもよかったです)

奈緒が立ち上がる。

「谢谢您。能顺利推进,我也放心了」
(ありがとうございます。うまく進められて、ほっとしました)

もう、いつもの仕事の顔だ。
なんとなく、話してみたくなった。

「我倒是没想到,你会问我」
(まさか、俺に聞くとは思いませんでした)

奈緒が一瞬目を丸くした。

「是不是有点太突然了?」
(やっぱり、ちょっと突然でしたか?)

「有一点」
(少しね)

本当は、かなり意外だった。
奈緒は少し照れたように笑ってから、言った。

「其实,知道您今天会来以后,我就决定一定要问。毕竟,这是您的粉丝见面会」
(実は、呉さんが今日来てくださると決まったときから、絶対に聞こうと思っていたんです。だって、呉さんのファンミーティングですから)

ん?
最初から?

俺が黙っていると、奈緒は続けた。

「之前的问题,也谢谢您认真回答」
(事前の質問にも、丁寧に答えてくださってありがとうございました)

ああ、あれか。

小明から送られてきた、いつもとは少し違う質問。
「ファンに、どんな気持ちで帰ってほしいか」とか、そんなことを聞かれたんだった。

あの質問も、奈緒だったのか。
楽しそうに笑ってる。

「更有吴先生自己的风格了。我很期待」
(より呉さんらしくなりましたね。楽しみです)

また、少しだけ引っかかった。

この人が見ているのは、俳優としての呉凱でも、ブランドアンバサダーとしての呉凱でもなく。

俺。

そんな気がした。

さっきまで堂々と会議を進めていた人が、終わった途端、あんなふうに息を吐いていたことも。
最初から俺の意見を聞こうと決めていたことも。

妙に頭に残った。