さっきよりも、奈緒の表情が柔らかくなっている。
そろそろいいかな。
本来、今日は2人の食事会だった。
「那……奈绪、小明,我今天想做的事,就是亲口跟奈绪说声谢谢」
(じゃあ、奈緒、小明。俺が今日したかったのは、奈緒に直接お礼を言うことだったから)
「现在已经完成了」
(もう、それはできたし)
「接下来就是你们两个的时间。你们尽管聊,我在旁边听就好」
(あとは2人の時間だよ。存分に話して。俺は隣で聞いてるから)
小明がおかしそうに笑った。
「对啊。难得又见到奈绪,我还有一大堆事情想问她」
(そうよ。せっかくまた奈緒に会えたんだから、私、聞きたいことがいっぱいあるの)
ちょうどそのとき、奈緒が餃子を口に入れた。
頬が少し膨らんでいる。目は完全に「美味しい」と言っていた。
本当に好きなんだな。
思わず口元が緩む。
小明が続けた。
「上次光顾着聊我的事了。这次说好了,要听你的」
(この前は私の話ばっかりだったから。今日は奈緒の話を聞くって約束したでしょ)
奈緒は慌てて餃子を飲み込む。
「嗯,是说了」
(うん、言ってたね)
少し笑って、小明を見る。
「那……你想听什么?」
(じゃあ……何が聞きたい?)
小明はビールを飲んで、グラスを置いた。
「好,那第一个问题」
(じゃあ、1つ目の質問)
待ってましたという顔だ。
「你中文怎么这么好?家里有中国背景吗?」
(どうしてそんなに中国語が上手なの? 家族に中国のルーツがあるの?)
奈緒が吹き出した。
「这个?」
(そこ?)
「没有啦,完全没有」
(ないよ。全然ない)
「我是上大学以后才开始学中文的」
(中国語を勉強し始めたのも、大学に入ってからだし)
え。
「大学以后?」
(大学から?)
思わず口を挟んだ。
奈緒が俺を見る。
「对」
(はい)
俺は15歳でカナダへ渡った。
英語を覚えるのに、最初は必死だった。
大学から始めて、ここまで?
「那你怎么会想到学中文?」
(それで、どうして中国語を勉強しようと思ったの?)
聞いてしまってから、少し笑う。
横で聞いていると言ったばかりなのに。
小明がちらっと俺を見た。
奈緒は少し照れたように笑う。
「我上大学以后,就迷上了中国的电视剧和电影。真的,一头栽进去了」
(大学に入ってから、中国のドラマや映画にハマったの。本当にどっぷり)
「然后就对中文有兴趣了。因为有些作品在日本还看不到,我就想,要是去了中国,是不是能看到更多」
(それで中国語に興味を持って。日本ではまだ観られない作品もあるから、中国に行ったらもっと観られるかなって)
奈緒が笑う。
「现在想想,动机好像有点不纯」
(今考えると、かなり不純な動機なんだけど)
「可是,中国的影视作品真的让我很震撼。作品的规模,还有演员的水准……」
(でも、中国の映像作品には本当に感動したの。作品のスケールも、俳優さんのレベルも……)
そう言いながら、ちらっと俺の方を見た。
「想到中国有那么多人,能从中脱颖而出,成为一线演员,得付出多少努力,又得有多少天赋啊」
(中国の人口を考えたら、その中から選ばれて第一線で活躍する俳優さんになるには、どれだけの努力と才能が必要なんだろうって)
途中で、ハッとしたように奈緒は姿勢を正した。
「等一下……在一线演员本人和他的团队面前讲这些,好像有点不好意思」
(待って……一流の俳優さんと、そのチームを前にしてこんな話、なんだか恥ずかしいんだけど)
小明が即答した。
「想听啊」
(聞きたいよ)
「你后来什么时候来的上海?」
(そのあと、いつ上海に来たの?)
「有两次」
(2回あるの)
「大学的时候,来上海交换留学了一年。那时候已经会说一点中文了,在上海过得特别开心」
(大学のとき、交換留学で1年。その頃には中国語も少し話せるようになっていて、上海での生活がすごく楽しかった)
「所以毕业以后,我又回上海读了研究生,后来就留在这边工作了」
(だから卒業後、また上海に戻って大学院で学んで、そのままこっちで就職したの)
なるほど。
小明が感心したように奈緒を見る。
「那你的中文,都是靠自己努力学出来的?」
(じゃあ、その中国語って、自力で身につけたの?)
奈緒の顔が急に複雑になった。
「中文……我真的很努力」
(中国語は……本当に頑張った)
その言い方に、俺と小明は同時に笑った。
「你那是什么表情?」
(何、その顔)
小明が聞く。
奈緒は、はあ、と息を吐いた。
「因为想到那个时候了」
(あの頃を思い出しちゃって)
「那时候真的很拼。大学的课,还有中文,两边都要顾」
(本当に必死で。大学の授業も、中国語の勉強も、両方やらなきゃいけなくて)
「现在如果有人叫我再来一次……我真的不行」
(今もう1回やれって言われても……本当に無理)
そう言って苦笑した。
大学から始めた言葉を、今では仕事で何の問題もなく使っている。
会議では、中国語で議論を整理していた。
さらっと話しているけれど、相当やったんだろうな。
好きだったから始めて。
もっと知りたいと思って。
実際に上海まで来て。
ここまで自分のものにした。
小明と笑っている奈緒は柔らかい。
でも、その中にあるものは、思っていたよりずっと強い。
そろそろいいかな。
本来、今日は2人の食事会だった。
「那……奈绪、小明,我今天想做的事,就是亲口跟奈绪说声谢谢」
(じゃあ、奈緒、小明。俺が今日したかったのは、奈緒に直接お礼を言うことだったから)
「现在已经完成了」
(もう、それはできたし)
「接下来就是你们两个的时间。你们尽管聊,我在旁边听就好」
(あとは2人の時間だよ。存分に話して。俺は隣で聞いてるから)
小明がおかしそうに笑った。
「对啊。难得又见到奈绪,我还有一大堆事情想问她」
(そうよ。せっかくまた奈緒に会えたんだから、私、聞きたいことがいっぱいあるの)
ちょうどそのとき、奈緒が餃子を口に入れた。
頬が少し膨らんでいる。目は完全に「美味しい」と言っていた。
本当に好きなんだな。
思わず口元が緩む。
小明が続けた。
「上次光顾着聊我的事了。这次说好了,要听你的」
(この前は私の話ばっかりだったから。今日は奈緒の話を聞くって約束したでしょ)
奈緒は慌てて餃子を飲み込む。
「嗯,是说了」
(うん、言ってたね)
少し笑って、小明を見る。
「那……你想听什么?」
(じゃあ……何が聞きたい?)
小明はビールを飲んで、グラスを置いた。
「好,那第一个问题」
(じゃあ、1つ目の質問)
待ってましたという顔だ。
「你中文怎么这么好?家里有中国背景吗?」
(どうしてそんなに中国語が上手なの? 家族に中国のルーツがあるの?)
奈緒が吹き出した。
「这个?」
(そこ?)
「没有啦,完全没有」
(ないよ。全然ない)
「我是上大学以后才开始学中文的」
(中国語を勉強し始めたのも、大学に入ってからだし)
え。
「大学以后?」
(大学から?)
思わず口を挟んだ。
奈緒が俺を見る。
「对」
(はい)
俺は15歳でカナダへ渡った。
英語を覚えるのに、最初は必死だった。
大学から始めて、ここまで?
「那你怎么会想到学中文?」
(それで、どうして中国語を勉強しようと思ったの?)
聞いてしまってから、少し笑う。
横で聞いていると言ったばかりなのに。
小明がちらっと俺を見た。
奈緒は少し照れたように笑う。
「我上大学以后,就迷上了中国的电视剧和电影。真的,一头栽进去了」
(大学に入ってから、中国のドラマや映画にハマったの。本当にどっぷり)
「然后就对中文有兴趣了。因为有些作品在日本还看不到,我就想,要是去了中国,是不是能看到更多」
(それで中国語に興味を持って。日本ではまだ観られない作品もあるから、中国に行ったらもっと観られるかなって)
奈緒が笑う。
「现在想想,动机好像有点不纯」
(今考えると、かなり不純な動機なんだけど)
「可是,中国的影视作品真的让我很震撼。作品的规模,还有演员的水准……」
(でも、中国の映像作品には本当に感動したの。作品のスケールも、俳優さんのレベルも……)
そう言いながら、ちらっと俺の方を見た。
「想到中国有那么多人,能从中脱颖而出,成为一线演员,得付出多少努力,又得有多少天赋啊」
(中国の人口を考えたら、その中から選ばれて第一線で活躍する俳優さんになるには、どれだけの努力と才能が必要なんだろうって)
途中で、ハッとしたように奈緒は姿勢を正した。
「等一下……在一线演员本人和他的团队面前讲这些,好像有点不好意思」
(待って……一流の俳優さんと、そのチームを前にしてこんな話、なんだか恥ずかしいんだけど)
小明が即答した。
「想听啊」
(聞きたいよ)
「你后来什么时候来的上海?」
(そのあと、いつ上海に来たの?)
「有两次」
(2回あるの)
「大学的时候,来上海交换留学了一年。那时候已经会说一点中文了,在上海过得特别开心」
(大学のとき、交換留学で1年。その頃には中国語も少し話せるようになっていて、上海での生活がすごく楽しかった)
「所以毕业以后,我又回上海读了研究生,后来就留在这边工作了」
(だから卒業後、また上海に戻って大学院で学んで、そのままこっちで就職したの)
なるほど。
小明が感心したように奈緒を見る。
「那你的中文,都是靠自己努力学出来的?」
(じゃあ、その中国語って、自力で身につけたの?)
奈緒の顔が急に複雑になった。
「中文……我真的很努力」
(中国語は……本当に頑張った)
その言い方に、俺と小明は同時に笑った。
「你那是什么表情?」
(何、その顔)
小明が聞く。
奈緒は、はあ、と息を吐いた。
「因为想到那个时候了」
(あの頃を思い出しちゃって)
「那时候真的很拼。大学的课,还有中文,两边都要顾」
(本当に必死で。大学の授業も、中国語の勉強も、両方やらなきゃいけなくて)
「现在如果有人叫我再来一次……我真的不行」
(今もう1回やれって言われても……本当に無理)
そう言って苦笑した。
大学から始めた言葉を、今では仕事で何の問題もなく使っている。
会議では、中国語で議論を整理していた。
さらっと話しているけれど、相当やったんだろうな。
好きだったから始めて。
もっと知りたいと思って。
実際に上海まで来て。
ここまで自分のものにした。
小明と笑っている奈緒は柔らかい。
でも、その中にあるものは、思っていたよりずっと強い。
