「しぃちゃん。」 「ん?なぁに?」 「言いたくないだろうから、深くは聞かないよ。あんた、この街に来る前に愛した男がいただろう?」 ドキっとして返す言葉に詰まった。 「う、うん。でも過去の話しだよ!どうしてそんな事聞くの?」 大家さんはしわくちゃな手で、口元をひと撫でして言った。 「うん、あんたの歌が、悲しい愛の歌に聞こえたよ。遠くのどこかを見てさ。だからさ。」 それ以上その話しはしなかった。大家さんが話しをすぐに逸らしてくれたから、私は過去の恋をわざわざ話す必要がなくなった。