世界で一番わがままな君とガラスの心臓

この身体を駆け巡る血の温もり、激しく脈打つ心臓の鼓動、風を切って走ることができるという奇跡。
そのすべてをこのトラックの上で解き放ち、私が一番眩しい風になって、下田の空まで届けてみせる。
「位置について——」
審判の声が響き、スタジアムの喧騒が一瞬にして静まり返った。
静寂。
私は静かに身をかがめ、スターティングブロックに両足をセットした。
トラックに手をつき、指先に体重を乗せる。
視線の先には、真っ直ぐに伸びる一筋のレーンと、その向こうにあるゴールライン。
びっくりするくらい、心が穏やかだ。
私が今から見せるのは、同情でも遠慮でもない。