世界で一番わがままな君とガラスの心臓

秋晴れの歓声が、巨大な摺り鉢状のスタンド席から降り注いでいた。


静岡県陸上競技場。全県の強豪が集う県高校新人陸上競技大会のトラックは、赤土ではなく洗練された全天候型のオールウェザートラックだった。どこまでも澄み切った九月の青空の下、眩しい日差しがメインスタンドの大型電光掲示板を照らし出している。


『女子100m 決勝』

アナウンスが競技場全体に重々しく響き渡り、観客席からの拍手が一段と大きくなった。


「4レーン、橘風花さん。海咲高校」


名前を呼ばれ、私は軽く右手を挙げた。

胸につけたゼッケンが、風になびいてパタパタと音を立てる。


周りを見渡せば、県内の有名強豪校のユニフォームを着た選手たちが、鋭い眼差しで直線のレーンを見つめていた。

誰もがこの一瞬のために厳しい練習を重ねてきた、本物のライバルたちだ。


けれど、私の胸の中に恐怖やプレッシャーは微塵もなかった。


スパイクの金属ピンが、硬質なトラックのゴムをしっかりと噛み締める。


手首を軽くほぐし、深く一呼吸。