シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

「…マリア。これはいったい…」


わたしは思わず声が震えた。


「そ、それは…」


言葉を詰まらせるマリア。

すると突然、大粒の涙をためて深く頭を下げてきた。


「ごめんなさい、リリアお姉さま…」

「どうしたの、いきなり」


わたしは、マリアの顔をのぞき込む。

マリアは、まるで子どものように泣きじゃくっている。


「せっかくお姉さまに受け取ってもらうはずだったハンカチが、こんなことになってしまって…」


それは見ればわかるけど…。


でも、ちょっと待って。

…なにかおかしくない?


それって、マリアが謝ることなの?


「私、がんばってもう一度つくりますから、次は必ず――」

「そうじゃない!」


ずっと喉につっかえていた言葉が、勢いのまま飛び出した。

わたしが声を荒げるものだから、マリアはビクッとして黙り込んだ。


わたしが怒っているのはそこじゃない。

“なんで”ハンカチをボロボロにしてしまったのかではなく、“だれが”ハンカチをボロボロにしたのか。


マリアが自分でこんなことするはずないもの。


「わたしたち、双子の姉妹でしょ?マリアの楽しいことやうれしいことは、共有したいと思ってる」


わたしはマリアの頬に流れる涙を指ではらう。


「もちろん、つらいことや悲しいことも、全部ね」


わたしが笑ってみせると、マリアの瞳からはまた、大粒の涙があふれ出した。


「リリアお姉さまぁ〜…!!」


そうして、わたしの胸に顔をうずめて泣いた。


そのあと、マリアをソファに座らせて落ち着かせる。

すると、ぽつりぽつりと言葉を詰まらせながらも話してくれた。


「実は、私…」


なんと、マリアは少し前から学院でいじめられていた。

しかも、そのいじめの原因は…まさかのわたし。


クラスメイトの女の子たちが、登校拒否のわたしをバカにしていたそう。

その発言が許せなくて、マリアが言い返したのが事の発端。


それをきっかけに、マリアはいじめられるように。


初めは、無視や陰口を言われる程度。

それが徐々にエスカレート。


今日は後ろから突き飛ばされ、そのせいで水たまりにはまってしまったという。


周りには心配をかけたくなくて、だれにも相談できずに今日まで悩んでいたと話してくれた。


まさか、マリアがひとりでいじめにたえていたなんて。

プリアカのときは、そんな設定なかった…。


それに、家では明るく振る舞っていたから全然わからなかった。


さっきマリアがシャワールームへ行くとき、胸の奥に引っかかりを感じていたけど…。

このことだったのね。


「…ごめんね、マリア」

「どうして、リリアお姉さまが謝るのですか」

「だって、マリアが学院でそんな思いをしているなんて知らなかったから…」


…姉として失格ね。


「マリア、なにも無理して学院に行かなくたっていいのよ?卒業なら、お父さまがどうにかしてくれるから」


わたしが言うのもなんだけど。

だって、リリアはそういう設定だから。


「ありがとうございます。ですが、授業は楽しいのです。だから、なるべく休みたくなくて」

「…そっか」


行きたいと言っているのに、行くなというのは言うのは少し違うわよね。


「だったら、護衛の人たちは?あの人たちは、マリアを守ることが仕事でしょう?」

「あの方たちは、屋敷と学院の行き帰りの間だけですから。学院の中のことは管轄外です」


…チッ、使えないわね。


心の中で舌打ちする。


「大丈夫です、お姉さま。私が我慢すればいいだけですから」

「でも…」


そんなの、マリアだけが我慢すればいいなんて間違っている。

それに、そう自分に言い聞かせるマリアの笑顔が見ていて切ない。


こんなにも健気でかわいいわたしの妹になんてことを…!


そう思うと、胸が押しつぶされるくらいに痛かった。


――いじめてるやつら、絶対に許さないんだから。


「わかった、マリア。わたしに任せて」


そう言って、ゆっくりとソファから立ち上がった。


「お姉さま。任せるとはいったい…」


きょとんとしながら見上げてくるマリアに、わたしはにっこりと笑った。


そして、部屋に戻るとドレッサーの前に座った。

引き出しから真っ赤なリップを取り出すと、唇にさっと塗った。


「あら。よく似合っているじゃない」


鏡に映るわたしは、悪役令嬢らしい意地悪な微笑みを浮かべている。


ふと脳裏に浮かぶのは、病弱でなにもできなかった前世。

これならはリリア・フォン・アルベールとして、悪役令嬢人生をとことん楽しんでやろうじゃない。


「妹のためなら、喜んで悪役になってみせますわ」