「…見てっ、あの子よ。この前、通行人をボコボコにしたっていうのは」
「アルベール家の長女よね?傲慢で、気に食わない者には『沈める』って言って脅すんでしょ?」
「こわいわね〜」
朝の散歩に出かけると、ご近所のご婦人方がわたしを見てヒソヒソと話している。
彼女たちが話しているのは、この前の誘拐犯ふたりを捕えた出来事だ。
あのときは、大切なマリアを守るためにこぶしを振るった。
だけど、いつの間にか尾ひれがつき、むしゃくしゃしたわたしが通りかかった人を殴ったという話になっている。
屋敷の中だけでなく、外でもリリアの評判は悪いようだ。
「それにしても、次女のマリアちゃんは今日もかわいらしいわね〜」
わたしのあとに、学院に向かうために屋敷から出てきたマリア。
護衛に付き添われながら、ご婦人方にエンジェルスマイルで挨拶を交わす。
今日のマリアもとびきりかわいい。
そこは同感だ。
リリアと比較してマリアの魅力が引き立てられるのなら、わたしはしっかりと悪役令嬢という役割をまっとうしよう。
「オホホホホ。そこのご婦人方、楽しそうなお話がわたくしの耳にまで丸聞こえですわよ〜」
口元に手を当てて不敵に微笑んでみせると、ご婦人方は顔を引きつらせた。
「い…、いやーーー…!!」
「沈められるわ〜…!」
悲鳴を上げながら、一目散に逃げていく。
その後ろ姿をドヤ顔で眺めていた。
なんだか、話し方もすっかり悪役令嬢っぽくなって、様になってきた。
意外とわたし、イケるかも。
「リリアお姉さま〜!寂しいですわ〜!」
そのとき、マリアがわたしに飛びついてきた。
「寂しいって、ただ学院に行くだけでしょ?」
「だって、その間はお姉さまと会えないんですもの」
…ほんとにこの子は。
どれだけリリアのことが好きなの。
「マリアお嬢さま、そろそろお時間です」
「え、もう?」
護衛が声をかけると、マリアはいじけたように口をとがらせた。
まだわたしといっしょにいたいマリアは、護衛に引きずられていった。
苦笑いを浮かべながら、マリアに手を振った。
そうして学院から帰ってくると、マリアは一番にわたしのところへやってくる。
初めは、こんな展開知らないと驚いたけど、かわいいマリアが慕ってくれるのは嫌じゃない。
むしろ、とってもうれしい。
いつもベタベタくっついてきてちょっと困ることもあるけど、それが当たり前になっていた。
――ところが。
ここ最近、マリアがわたしのところへこなくなった。
前までは、あんなに「お姉さま!お姉さま!」と言っていたのに。
べつに、仲が悪くなったわけではなさそう。
ただ、学院から帰ってきてもすぐに自分の部屋へとこもってしまう。
なんの変化…?
わたし、寂しいんですけど。
そんなある日、学院帰りのマリアの指に小さな包帯が巻かれているのに気がついた。
「マリア、その指どうしたの?」
「こ、これですか?たいしたことはございませんの」
それだけ言って、部屋の中へ。
しかし、日を追うごとに包帯の数が増えていく。
気がつけば、両手すべての指が包帯だらけになっていた。
「やっぱりマリア、明らかにケガしてるよね…!?」
「そ…そんなことはございませんわ〜」
そして、軽くかわされる。
でも、絶対おかしい!
ケガは増えるし、ベタベタしてこなくなったし…!
わたしには言えないようなことなの?
姉なのに、そんなに信用ない…?
しょんぼりしながら、ドレッサーの前で大きなため息をついた。
すると、朝の身支度で髪をとかしてくれていたばあやが不思議そうに、鏡の中のわたしの顔をのぞき込む。
「リリアお嬢さまがため息なんてめずらしい。いかがなされましたか」
「最近、マリアに避けられているみたいなの。わたし…、なにかしたかしら」
マリアのベタベタにはいつもやれやれと思っていたけど、悪い気はしなかった。
でも、その態度が傷つけてしまっただろうか。
深刻な顔をして相談したのに、なぜかばあやは大笑い。
「フフフッ。マリアお嬢さまがリリアお嬢さまを避けられている?それは絶対にございませんよ」
そ、そんなに笑うこと…!?
「だって、帰ってきてもすぐに部屋にこもっちゃうし…!」
「気にしすぎですよ」
気にしすぎって…。
気になるでしょ!
これまでと態度が違うんだから。
「それに最近のマリア、なにか危ないことしてたりしないわよね?」
「危ないこと?」
「ええ。だって、指に包帯が…」
「ああ。それでしたら、授業でお裁縫を習われているからですよ」
「裁縫?」
ばあやの話によると、裁縫の授業でハンカチの刺繍をしているのだとか。
マリアはそのたびに針で自分の指を刺して、ケガをつくっているらしい。
マリアはなにもやらせてもドジだから、それは簡単に想像できた。
「そんなにケガをするなら、もう刺繍なんてやめたらいいのに」
マリアのきれいな指に傷がつくなんて、わたしの胸が痛い。
「部屋にこもられているのも、少しでも早く刺繍を完成させたいからのようです」
「そうなの?」
「ええ。なにやら、お渡ししたい方がいるみたいで」
お渡ししたい方?
もしかして、わたしの知らないところで、すでに学院で恋愛イベントが発生!?
マリアがだれを選ぶのか、き…気になるっ。
ここは姉として、マリアに直接聞くしかない!
そうして、わたしはマリアの部屋へと急いだ。
「アルベール家の長女よね?傲慢で、気に食わない者には『沈める』って言って脅すんでしょ?」
「こわいわね〜」
朝の散歩に出かけると、ご近所のご婦人方がわたしを見てヒソヒソと話している。
彼女たちが話しているのは、この前の誘拐犯ふたりを捕えた出来事だ。
あのときは、大切なマリアを守るためにこぶしを振るった。
だけど、いつの間にか尾ひれがつき、むしゃくしゃしたわたしが通りかかった人を殴ったという話になっている。
屋敷の中だけでなく、外でもリリアの評判は悪いようだ。
「それにしても、次女のマリアちゃんは今日もかわいらしいわね〜」
わたしのあとに、学院に向かうために屋敷から出てきたマリア。
護衛に付き添われながら、ご婦人方にエンジェルスマイルで挨拶を交わす。
今日のマリアもとびきりかわいい。
そこは同感だ。
リリアと比較してマリアの魅力が引き立てられるのなら、わたしはしっかりと悪役令嬢という役割をまっとうしよう。
「オホホホホ。そこのご婦人方、楽しそうなお話がわたくしの耳にまで丸聞こえですわよ〜」
口元に手を当てて不敵に微笑んでみせると、ご婦人方は顔を引きつらせた。
「い…、いやーーー…!!」
「沈められるわ〜…!」
悲鳴を上げながら、一目散に逃げていく。
その後ろ姿をドヤ顔で眺めていた。
なんだか、話し方もすっかり悪役令嬢っぽくなって、様になってきた。
意外とわたし、イケるかも。
「リリアお姉さま〜!寂しいですわ〜!」
そのとき、マリアがわたしに飛びついてきた。
「寂しいって、ただ学院に行くだけでしょ?」
「だって、その間はお姉さまと会えないんですもの」
…ほんとにこの子は。
どれだけリリアのことが好きなの。
「マリアお嬢さま、そろそろお時間です」
「え、もう?」
護衛が声をかけると、マリアはいじけたように口をとがらせた。
まだわたしといっしょにいたいマリアは、護衛に引きずられていった。
苦笑いを浮かべながら、マリアに手を振った。
そうして学院から帰ってくると、マリアは一番にわたしのところへやってくる。
初めは、こんな展開知らないと驚いたけど、かわいいマリアが慕ってくれるのは嫌じゃない。
むしろ、とってもうれしい。
いつもベタベタくっついてきてちょっと困ることもあるけど、それが当たり前になっていた。
――ところが。
ここ最近、マリアがわたしのところへこなくなった。
前までは、あんなに「お姉さま!お姉さま!」と言っていたのに。
べつに、仲が悪くなったわけではなさそう。
ただ、学院から帰ってきてもすぐに自分の部屋へとこもってしまう。
なんの変化…?
わたし、寂しいんですけど。
そんなある日、学院帰りのマリアの指に小さな包帯が巻かれているのに気がついた。
「マリア、その指どうしたの?」
「こ、これですか?たいしたことはございませんの」
それだけ言って、部屋の中へ。
しかし、日を追うごとに包帯の数が増えていく。
気がつけば、両手すべての指が包帯だらけになっていた。
「やっぱりマリア、明らかにケガしてるよね…!?」
「そ…そんなことはございませんわ〜」
そして、軽くかわされる。
でも、絶対おかしい!
ケガは増えるし、ベタベタしてこなくなったし…!
わたしには言えないようなことなの?
姉なのに、そんなに信用ない…?
しょんぼりしながら、ドレッサーの前で大きなため息をついた。
すると、朝の身支度で髪をとかしてくれていたばあやが不思議そうに、鏡の中のわたしの顔をのぞき込む。
「リリアお嬢さまがため息なんてめずらしい。いかがなされましたか」
「最近、マリアに避けられているみたいなの。わたし…、なにかしたかしら」
マリアのベタベタにはいつもやれやれと思っていたけど、悪い気はしなかった。
でも、その態度が傷つけてしまっただろうか。
深刻な顔をして相談したのに、なぜかばあやは大笑い。
「フフフッ。マリアお嬢さまがリリアお嬢さまを避けられている?それは絶対にございませんよ」
そ、そんなに笑うこと…!?
「だって、帰ってきてもすぐに部屋にこもっちゃうし…!」
「気にしすぎですよ」
気にしすぎって…。
気になるでしょ!
これまでと態度が違うんだから。
「それに最近のマリア、なにか危ないことしてたりしないわよね?」
「危ないこと?」
「ええ。だって、指に包帯が…」
「ああ。それでしたら、授業でお裁縫を習われているからですよ」
「裁縫?」
ばあやの話によると、裁縫の授業でハンカチの刺繍をしているのだとか。
マリアはそのたびに針で自分の指を刺して、ケガをつくっているらしい。
マリアはなにもやらせてもドジだから、それは簡単に想像できた。
「そんなにケガをするなら、もう刺繍なんてやめたらいいのに」
マリアのきれいな指に傷がつくなんて、わたしの胸が痛い。
「部屋にこもられているのも、少しでも早く刺繍を完成させたいからのようです」
「そうなの?」
「ええ。なにやら、お渡ししたい方がいるみたいで」
お渡ししたい方?
もしかして、わたしの知らないところで、すでに学院で恋愛イベントが発生!?
マリアがだれを選ぶのか、き…気になるっ。
ここは姉として、マリアに直接聞くしかない!
そうして、わたしはマリアの部屋へと急いだ。



