シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

「…ひっ!ひぃぃぃぃい!さっきの野蛮女子…!」

「だから、だれが野蛮女子ですって!?」


わたしにコテンパンにされたっていうのに、こりずにマリアを狙うなんて絶対に許さない。


わたしと認識して、慌てて逃げようとする男。

その首根っこをつかむと、そのまま地面に顔を沈めた。


ふたりとも、一発KOでわたしの勝利。

れっきとした誘拐犯だから、今度は直接衛兵に引き渡さなくちゃ。


「…マリア!ケガはない!?」


そう言って振り返ると、マリアは地面にへたり込んでいた。

そして、大きな目が次第にうるみはじめる。


「リ…、リリアお姉さま〜…!」


わたしの胸に飛び込んでくると、ぎゅっと抱きしめながら泣きじゃくった。


か、かわいい…!!

泣き顔でさえも美しい。


「とにかく、無事でよかった」


マリアの頭をなでて、わたしも抱きしめ返した。


そのあと、マリアをピアノ教室まで送り届けた。

こんなときくらい休めばいいのに、ほんとマリアは真面目。


わたしは誘拐犯ふたりの足を引っ張って、衛兵に直接引き渡した。


「今度また同じことをしでかそうとしたら…。次こそは本当に沈めるわよ」


意識を取り戻した男たちに、二度とマリアに近づかないよう釘をさしておいた。


その日の夕食時。


普段であれば、食事も部屋で済ませるリリア。

そのリリアが食卓の場にいることに、両親も驚いていた。


「リ…リリアとの食事は久々だな」

「そ、そうね。急にどうしたの、リリアちゃん…?」


わたしに気をつかっているのか、両親の態度もよそよそしい。


「マリアに誘われたから仕方なく」


だってかわいいマリアがうるうるした目で頼んできたら、断れるわけがない。


それに、入院生活ではずっと食事はひとりきりだった。

だれかといっしょに食べるごはんはいつぶりだろう。


「それに、お父さまとお母さまに直接話したいこともあるし」

「話…?」


お父さまはごくりとつばを飲み込む。


わたしは普通に話しているだけなのに、お父さまもお母さまもなんだかビクビクしている。

どうやら、両親からもこわがられているみたい。


「今日、マリアがさらわれそうになったのは知っているでしょ?」

「あ…ああ。衛兵から聞いて驚いている」

「もし、また狙われたら大変でしょ?だから、学院の行き帰りにマリアに護衛をつけてほしいの」


今回は、たまたまわたしが気づいたからよかったものの。

あのまま連れ去られていたら大変なことになっていた。


「…リリアから!そのような言葉が出るとはっ…!」


驚いたお父さまは、握っていたはずのナイフとフォークを落としてしまった。


「あなた…!まさか、こんな日がくるなんて…」


お母さまがハンカチで目元を拭いはじめた。


「リリアちゃんが、そんなにマリアちゃんのことを思ってくれていただなんて…!ママ、感激!」


と言って、おんおん泣き出した。


え〜…、そんなに泣くこと?

よっぽど仲悪いと思われていたんだろうな。


「べ、べつに、当たり前のことでしょ」


ヒロイン不在のゲームなんて聞いたことがない。

そうなったら、だれがイケメン王子たちと恋をするっていうの。


「でしたらその護衛、リリアお姉さまにお願いしたいですわ」

「え…!?わたし!?」


突然のマリアの思わぬ提案に、わたしは目を見開く。


「だってお姉さま、とってもお強いのですよ!男ふたりを簡単にやっつけられたのですから!」

「リリアが?」

「本当なの、リリアちゃん?いつの間に、そんな技を――」

「ちょっと本で読んだのを試してみただけ…!まぐれよ、マ・グ・レ」


男たちからかっこよく救い出したお姉さま!

という、マリアから向けられるあこがれのまなざしがまぶしすぎる。


「リリアお姉さまがいっしょだったら私も安心ですし、そのままお姉さまも学院にいらしてくださいな」


リリアが学院に…?


体験版では、イケメン王子たちとは少ししか絡めなかった。

だからきっと学院に行けば、いろいろなイベントが発生して、もっとおもしろくなるはず。


でもそれは、プリアカの主人公“マリア”だから起こること。


リリアは、マリアと同じ学院に通うのが嫌で登校拒否している設定だった。

自ら学院にくるようになるのは、マリアの恋を邪魔しにくるとき。


つまり、マリアに向けられる王子の好感度がある程度まで上がらない限り、リリアが学院にくるイベントは発生しないのだ。


「…わたしはいいかな。今さら、だしね」


権力者であるお父さまのおかげで、通わなくても在籍しているだけで卒業できることは確定している。

それにわたしが行ったことで、マリアの恋愛イベントがおかしくなっても困るし。


「わたしは部屋で閉じこもっているのがお似合いなのよ」


そう言って笑ってみせた。


前世でもそう。

そして今世も、わたしは部屋でひとりきり。


本当は、本当はわたしも学院に通いたいけどね…!

でも、かわいいマリアのためなら仕方ない。


そう思っていたのだけれど――。

まさか、学院に殴り込みにいくことになるとは、このときのわたしが知るよしもない。