妹のマリアが帰ってきた!?
わたしは優雅なティータイムの時間をなげうって、慌てて部屋から飛び出した。
玄関ホールはどっちだったかな。
両側ともに長く続く廊下のど真ん中に立って、せわしなく左右に首を振る。
初心者だったら、この時点で迷ってしまうかもしれない。
でもわたしは、体験版を繰り返し何度もプレイしたおかげで、アルベール家の広い屋敷のマップも頭に入っている。
「こっちね!」
狙いを定め、左側へと進んだ。
本当に、ゲームと同じ造りだ。
でも、家具や装飾品のディテールは、スマホの画面でプレイしているときには見落としていた。
実際はこんなに細かいデザインだったんだと、廊下を歩きながら、見ているだけでワクワクした。
途中、大きな姿見に移る自分と目が合った。
まだ夢の中にいるみたいだけど、わたし…本当にリリアになったんだ。
「ただ今、戻りました」
玄関ホールから耳触りのいい声が響いてきた。
ドキドキしながら、二階の階段上の角から顔をのぞかせた。
ドレスと違って、学院の白い制服を着ていたからすぐにわかった。
サラッサラの流れる金色のストレートのロングヘア。
小柄で、小動物のようにクリンとした目。
周囲の人々の頬を自然とゆるませるほどに、かわいらしい容姿でたたずむその女の子は――。
わたしが何度もなりかわってプレイしたプリアカの主人公兼ヒロイン、マリア・フォン・アルベール。
思わず、息をするのも忘れてしまうほどに見とれてしまった。
「お嬢さま、おかえりなさいませ」
「学院、お疲れさまでした」
出迎える使用人たちに、にこやかに微笑みかけるマリア。
生のマリアを前にして、わたしは目をまん丸と見開く。
「ほ…、本物だ!」
ひっそりと隠れてのぞいていたのに、とっさに声が出てしまった。
頭上から降ってきた声に、その場にいたみんなが反応する。
もちろん、マリアも。
すぐに両手で口をふさいで角に隠れたけれど、すでに遅し。
…どうしよう。
マリアと目が合っちゃった…!
ありえないくらいの速さで心臓がドクドクしている。
ちょっとだけ、苦しいかも。
その場でしゃがみ込んで、息が整うのを待っていた。
すると――。
「リリアお姉さま〜!」
驚いて顔を向けると、なんとマリアが小走りで階段を駆け上がってきた。
しかも、一瞬にて心臓を射抜かれてしまうほどのスマイルを見せて。
「お姉さまがこのお時間に、お部屋から出てこられているなんてめずらしいですね」
そう言われて、はっとした。
ゲームの中のリリアはマリアのことが嫌いで、なるべく顔も合わせないようにしていたっけ。
だから、マリアが学院から戻ってくるこの時間は、ずっと部屋に閉じこもっていたはず。
ゲーム通りに進行するなら、わたしは部屋にいなくちゃいけないんだ。
でも、今はすぐには無理…。
あこがれのマリアがすぐそばにいて、緊張で動けない…!
「お姉さま、具合でも悪いのですか!?」
様子がおかしいわたしを心配して、マリアがのぞき込んでくる。
顔を上げると、天使のようなベビーフェイスが間近に迫っていた。
…かっ、かわいすぎる!!
また心臓がドキッと跳ねる。
というか、リリアとマリアって仲が悪いんじゃなかったっけ?
どうしてマリアは、こんなになついているの!?
ゲームのリリアなら、ここでマリアをいじめるはず。
だけど――。
同性のわたしでも惚れてしまいそうになる、かわいさ。
そんなマリアを、どうしたらいじめられるというのだろうか。
いや、わたしにはできない!
…だめだ。
さらに興奮して、これ以上は心臓がもたない…。
こんなにドキドキして胸が苦しいと、前世の持病を思い出しちゃう。
なんとか落ち着かせなきゃ。
「わたしに近づかないで」
そう言って、わたしは壁に手をついてなんとか立ち上がった。
本当は、もっと近くでマリアを見ていたい。
でも、このままだと心臓が本当にどうにかなりそう…!
マリアのかわいさ、破壊力が強すぎる!
わたしは左胸を押さえながら、よろよろとその場を去った。
部屋に戻ると、ベッドに寝転がった。
同時に、重いため息がもれた。
マリアのかわいさに胸が苦しくて、あの場を離れなければと思ったわたしは、ひどいことを言ってしまった。
『わたしに近づかないで』
そのまま愛想悪く去ってしまった。
絶対マリアを傷つけたぁ〜…。
今ごろ、部屋で悲しんでいるはず。
…謝りにいこうか。
でも、それじゃあこのゲームがなりたたない。
悪役令嬢のリリアが、実はいいやつだったなんていう設定は。
リリアの嫌がらせがあるからこそ、マリアと恋愛対象のイケメン王子との恋がさらに燃え上がるんだから。
マリアがやたらとリリアを慕ってきたのは予想外だった。
でもマリアは心優しいから、体調が悪そうな姉を心配しただけ。
大好きなマリアがだれかと幸せになるためには、心を鬼にしてわたしがマリアをいじめるしかないんだ。
…本当は嫌だけど。
コンコンッ
そのとき、ドアがノックされた。
だれだろう?
ばあやか使用人かな?
そう思いながら、ドアを開けると――。
「リリアお姉さま〜!遊んでくださいな〜!」
突然、マリアが飛び込んできた。
だからっ…、なんでなの!?
マリアって、こんなにもリリアのことが好きだったっけ!?
わたしは優雅なティータイムの時間をなげうって、慌てて部屋から飛び出した。
玄関ホールはどっちだったかな。
両側ともに長く続く廊下のど真ん中に立って、せわしなく左右に首を振る。
初心者だったら、この時点で迷ってしまうかもしれない。
でもわたしは、体験版を繰り返し何度もプレイしたおかげで、アルベール家の広い屋敷のマップも頭に入っている。
「こっちね!」
狙いを定め、左側へと進んだ。
本当に、ゲームと同じ造りだ。
でも、家具や装飾品のディテールは、スマホの画面でプレイしているときには見落としていた。
実際はこんなに細かいデザインだったんだと、廊下を歩きながら、見ているだけでワクワクした。
途中、大きな姿見に移る自分と目が合った。
まだ夢の中にいるみたいだけど、わたし…本当にリリアになったんだ。
「ただ今、戻りました」
玄関ホールから耳触りのいい声が響いてきた。
ドキドキしながら、二階の階段上の角から顔をのぞかせた。
ドレスと違って、学院の白い制服を着ていたからすぐにわかった。
サラッサラの流れる金色のストレートのロングヘア。
小柄で、小動物のようにクリンとした目。
周囲の人々の頬を自然とゆるませるほどに、かわいらしい容姿でたたずむその女の子は――。
わたしが何度もなりかわってプレイしたプリアカの主人公兼ヒロイン、マリア・フォン・アルベール。
思わず、息をするのも忘れてしまうほどに見とれてしまった。
「お嬢さま、おかえりなさいませ」
「学院、お疲れさまでした」
出迎える使用人たちに、にこやかに微笑みかけるマリア。
生のマリアを前にして、わたしは目をまん丸と見開く。
「ほ…、本物だ!」
ひっそりと隠れてのぞいていたのに、とっさに声が出てしまった。
頭上から降ってきた声に、その場にいたみんなが反応する。
もちろん、マリアも。
すぐに両手で口をふさいで角に隠れたけれど、すでに遅し。
…どうしよう。
マリアと目が合っちゃった…!
ありえないくらいの速さで心臓がドクドクしている。
ちょっとだけ、苦しいかも。
その場でしゃがみ込んで、息が整うのを待っていた。
すると――。
「リリアお姉さま〜!」
驚いて顔を向けると、なんとマリアが小走りで階段を駆け上がってきた。
しかも、一瞬にて心臓を射抜かれてしまうほどのスマイルを見せて。
「お姉さまがこのお時間に、お部屋から出てこられているなんてめずらしいですね」
そう言われて、はっとした。
ゲームの中のリリアはマリアのことが嫌いで、なるべく顔も合わせないようにしていたっけ。
だから、マリアが学院から戻ってくるこの時間は、ずっと部屋に閉じこもっていたはず。
ゲーム通りに進行するなら、わたしは部屋にいなくちゃいけないんだ。
でも、今はすぐには無理…。
あこがれのマリアがすぐそばにいて、緊張で動けない…!
「お姉さま、具合でも悪いのですか!?」
様子がおかしいわたしを心配して、マリアがのぞき込んでくる。
顔を上げると、天使のようなベビーフェイスが間近に迫っていた。
…かっ、かわいすぎる!!
また心臓がドキッと跳ねる。
というか、リリアとマリアって仲が悪いんじゃなかったっけ?
どうしてマリアは、こんなになついているの!?
ゲームのリリアなら、ここでマリアをいじめるはず。
だけど――。
同性のわたしでも惚れてしまいそうになる、かわいさ。
そんなマリアを、どうしたらいじめられるというのだろうか。
いや、わたしにはできない!
…だめだ。
さらに興奮して、これ以上は心臓がもたない…。
こんなにドキドキして胸が苦しいと、前世の持病を思い出しちゃう。
なんとか落ち着かせなきゃ。
「わたしに近づかないで」
そう言って、わたしは壁に手をついてなんとか立ち上がった。
本当は、もっと近くでマリアを見ていたい。
でも、このままだと心臓が本当にどうにかなりそう…!
マリアのかわいさ、破壊力が強すぎる!
わたしは左胸を押さえながら、よろよろとその場を去った。
部屋に戻ると、ベッドに寝転がった。
同時に、重いため息がもれた。
マリアのかわいさに胸が苦しくて、あの場を離れなければと思ったわたしは、ひどいことを言ってしまった。
『わたしに近づかないで』
そのまま愛想悪く去ってしまった。
絶対マリアを傷つけたぁ〜…。
今ごろ、部屋で悲しんでいるはず。
…謝りにいこうか。
でも、それじゃあこのゲームがなりたたない。
悪役令嬢のリリアが、実はいいやつだったなんていう設定は。
リリアの嫌がらせがあるからこそ、マリアと恋愛対象のイケメン王子との恋がさらに燃え上がるんだから。
マリアがやたらとリリアを慕ってきたのは予想外だった。
でもマリアは心優しいから、体調が悪そうな姉を心配しただけ。
大好きなマリアがだれかと幸せになるためには、心を鬼にしてわたしがマリアをいじめるしかないんだ。
…本当は嫌だけど。
コンコンッ
そのとき、ドアがノックされた。
だれだろう?
ばあやか使用人かな?
そう思いながら、ドアを開けると――。
「リリアお姉さま〜!遊んでくださいな〜!」
突然、マリアが飛び込んできた。
だからっ…、なんでなの!?
マリアって、こんなにもリリアのことが好きだったっけ!?



