「あ、ありがとう。意外とうまいのね」
「これくらい、フツーだろ。」
ぶっきらぼうに吐き捨てながらも、ルイが丁寧に捻挫した足に包帯を巻いていく。
医務室の先生は席を外していなかったから、代わりに手当てをしてくれた。
「…まったく。無茶しすぎだ」
「だって、絶対にわたしが優勝しないといけない状況だったから――」
「お前、気は強いけど、体はそんなに強くないだろ?」
ルイがチラリに視線を送ってくる。
「妹のためって言って張り切りすぎてたら、そのうちぶっ倒れるぞ」
「それはそれで本望よ。わたしの一番はマリアですもの!」
口元に手を添えて、高らかに笑う。
「…この、シスコン令嬢が」
「なにか言った?」
「なんでもない」
ルイは、はあ…と思いため息をついた。
「夜は、ダンスパーティーがある。ただ、この足じゃ無理だな」
「えー…!せっかく楽しみにしてたのに!」
「無理なものは無理だ」
わたしはプーと頬をふくらませる。
まあ、そもそもダンスなんて踊ったこともないけどね。
「しばらくここで休んでろ。いいな」
そう言って、ルイはわたしの頭の上にポンポンっと手を置いて去っていった。
「なによ、わたしに気安く触って」
ルイの背中に向かってにらんだ。
だけど…、なぜが胸がドキドキしているのはなぜだろう。
おかしいわね。
前世の持病の発作かしら?
そうして、闘技大会は幕を閉じる。
西の空に太陽が沈み、辺りが薄暗くなったころ、リュミエール学院自慢のダンスホールのシャンデリアがきらめいた。
ダンスパーティーの始まりだ。
この足でダンスは踊れなくても出席はしたくて、華やかな赤のドレスに着替えて現れた。
「リリアお姉さま〜!」
声が聞こえて振り返ると、淡いピンク色のドレスの裾をつかんで駆け寄ってくるマリアの姿があった。
「お姉さま、医務室に運ばれたのでは…?参加しても大丈夫ですか」
「ええ、平気よ。だって、せっかくの一大イベントなのに、欠席なんてもったいないじゃない」
それに、なんだか足も痛くなくなって気がする。
「お姉さま、とってもおきれいですわ!」
「ありがとう。マリアもドレスがよく似合ってて、かわいいわよ」
わたしたちは顔を見合わせて微笑む。
ダンスパーティーは、自由に男女がペアになって踊っていく。
マリアはこういう場が苦手だし、わたしといっしょにソファ席で食事をしながら見学していた。
「そういえば、私びっくりしました。まさか、お姉さまが剣技にエントリーされてただなんて」
「ああ…、あれは完全になりゆきね」
わたしは苦笑いを浮かべる。
「あれから、カイヤはどう?」
「朝から気配を感じていましたが、闘技大会が終わってからは一切ありません」
「あら、そう!それはよかったわ」
優勝して告白するはずだったのに、その夢が断たれたら、さすがのカイヤも落ち込んじゃったかしら。
ともあれ、マリアが穏やかに過ごせているのならよかったわ。
ダンスパーティーも終盤に差しかかり、さっきまでと曲調が変わった。
それに、ダンスするペアの数も極端に減った。
「急に少なくなったわね。みんな疲れちゃったのかしら」
「違いますわ、お姉さま。カップルダンスの時間に変わったのです」
「カップルダンス?」
カップルダンスとは、実際にお付き合いしている恋人同士、または、お互い想い合っている人同士で踊れる甘い時間。
だから、ムードが変わったのだ。
もしマリアにいい王子をあてがわれていれば、今ごろふたりで踊れていたのに。
わたしなんかとの食事で大事な時間を使わせるなんて、ごめんね…マリア!
きっと来年のこの時間にこのダンスホールの中央で優雅に踊っているのは、マリアとその相手だから。
ため息をつきながら、ステーキを頬張った――そのとき。
「そこのお嬢さま、ボクといっしょに踊っていただけませんか?」
「いや、ぜひぼくと。愛しのハニー」
「オレを選べ。リードする」
この声は、もしかして…!
はっとして顔を上げると、リオ、アラン、カイヤがお辞儀をしていた。
そして、マリアに向かってそれぞれ手を差し伸べる。
マリアの恋愛イベント発生よ!
「三銃士から一斉にダンスのお誘い!?」
「なんて、うらやましいの!」
周囲は感嘆の声をもらす。
だれもがあこがれるシチュエーション。
だけどわたしは、マリアをかばうようにして背後に隠した。
「妹のマリアをダンスに誘うなんて、百万年早いですわ!」
三銃士の欠点を改善しない限り、マリアに近づけるわけにはいかない。
こんなに純粋で清らかなマリアが毒牙にかかったら大変!
「出直してきてくださるかしら?」
わたしは羽つき扇子を広げて、フンッと鼻を鳴らした。
「あの悪役令嬢、三銃士のからのお誘いを断ったわよ…!」
「しかも、自分が誘われたわけでもないのに!?」
「きっと、妹と三銃士が仲よくなるのが気に食わないのよ」
なんとでも言いなさい。
これからわたしが直々に三銃士を教育して、マリアの理想の婚約者にするべく――。
「あの、お姉さま…」
「安心しなさい、マリア。なにも焦る必要はないんだから」
「いえ、お姉さま…」
「周りの反応なんて気にすることないわ。お姉さまが守ってあげるから」
「それがですね、お姉さま…」
「だから、大丈夫よ。マリアは堂々としていれば――」
「ですから、お姉さま!私の話を聞いてください!」
めずらしくマリアが大きな声を出した。
「いったい、どうしたのマリア?」
「リリアお姉さま、よく見てください。ダンスにお誘いされているのは、私ではございません」
「へ?マリア、なに言ってるの。三人の手はあなたに――」
…向いていない!?
よく見ると――。
なぜか、わたし!?
「これくらい、フツーだろ。」
ぶっきらぼうに吐き捨てながらも、ルイが丁寧に捻挫した足に包帯を巻いていく。
医務室の先生は席を外していなかったから、代わりに手当てをしてくれた。
「…まったく。無茶しすぎだ」
「だって、絶対にわたしが優勝しないといけない状況だったから――」
「お前、気は強いけど、体はそんなに強くないだろ?」
ルイがチラリに視線を送ってくる。
「妹のためって言って張り切りすぎてたら、そのうちぶっ倒れるぞ」
「それはそれで本望よ。わたしの一番はマリアですもの!」
口元に手を添えて、高らかに笑う。
「…この、シスコン令嬢が」
「なにか言った?」
「なんでもない」
ルイは、はあ…と思いため息をついた。
「夜は、ダンスパーティーがある。ただ、この足じゃ無理だな」
「えー…!せっかく楽しみにしてたのに!」
「無理なものは無理だ」
わたしはプーと頬をふくらませる。
まあ、そもそもダンスなんて踊ったこともないけどね。
「しばらくここで休んでろ。いいな」
そう言って、ルイはわたしの頭の上にポンポンっと手を置いて去っていった。
「なによ、わたしに気安く触って」
ルイの背中に向かってにらんだ。
だけど…、なぜが胸がドキドキしているのはなぜだろう。
おかしいわね。
前世の持病の発作かしら?
そうして、闘技大会は幕を閉じる。
西の空に太陽が沈み、辺りが薄暗くなったころ、リュミエール学院自慢のダンスホールのシャンデリアがきらめいた。
ダンスパーティーの始まりだ。
この足でダンスは踊れなくても出席はしたくて、華やかな赤のドレスに着替えて現れた。
「リリアお姉さま〜!」
声が聞こえて振り返ると、淡いピンク色のドレスの裾をつかんで駆け寄ってくるマリアの姿があった。
「お姉さま、医務室に運ばれたのでは…?参加しても大丈夫ですか」
「ええ、平気よ。だって、せっかくの一大イベントなのに、欠席なんてもったいないじゃない」
それに、なんだか足も痛くなくなって気がする。
「お姉さま、とってもおきれいですわ!」
「ありがとう。マリアもドレスがよく似合ってて、かわいいわよ」
わたしたちは顔を見合わせて微笑む。
ダンスパーティーは、自由に男女がペアになって踊っていく。
マリアはこういう場が苦手だし、わたしといっしょにソファ席で食事をしながら見学していた。
「そういえば、私びっくりしました。まさか、お姉さまが剣技にエントリーされてただなんて」
「ああ…、あれは完全になりゆきね」
わたしは苦笑いを浮かべる。
「あれから、カイヤはどう?」
「朝から気配を感じていましたが、闘技大会が終わってからは一切ありません」
「あら、そう!それはよかったわ」
優勝して告白するはずだったのに、その夢が断たれたら、さすがのカイヤも落ち込んじゃったかしら。
ともあれ、マリアが穏やかに過ごせているのならよかったわ。
ダンスパーティーも終盤に差しかかり、さっきまでと曲調が変わった。
それに、ダンスするペアの数も極端に減った。
「急に少なくなったわね。みんな疲れちゃったのかしら」
「違いますわ、お姉さま。カップルダンスの時間に変わったのです」
「カップルダンス?」
カップルダンスとは、実際にお付き合いしている恋人同士、または、お互い想い合っている人同士で踊れる甘い時間。
だから、ムードが変わったのだ。
もしマリアにいい王子をあてがわれていれば、今ごろふたりで踊れていたのに。
わたしなんかとの食事で大事な時間を使わせるなんて、ごめんね…マリア!
きっと来年のこの時間にこのダンスホールの中央で優雅に踊っているのは、マリアとその相手だから。
ため息をつきながら、ステーキを頬張った――そのとき。
「そこのお嬢さま、ボクといっしょに踊っていただけませんか?」
「いや、ぜひぼくと。愛しのハニー」
「オレを選べ。リードする」
この声は、もしかして…!
はっとして顔を上げると、リオ、アラン、カイヤがお辞儀をしていた。
そして、マリアに向かってそれぞれ手を差し伸べる。
マリアの恋愛イベント発生よ!
「三銃士から一斉にダンスのお誘い!?」
「なんて、うらやましいの!」
周囲は感嘆の声をもらす。
だれもがあこがれるシチュエーション。
だけどわたしは、マリアをかばうようにして背後に隠した。
「妹のマリアをダンスに誘うなんて、百万年早いですわ!」
三銃士の欠点を改善しない限り、マリアに近づけるわけにはいかない。
こんなに純粋で清らかなマリアが毒牙にかかったら大変!
「出直してきてくださるかしら?」
わたしは羽つき扇子を広げて、フンッと鼻を鳴らした。
「あの悪役令嬢、三銃士のからのお誘いを断ったわよ…!」
「しかも、自分が誘われたわけでもないのに!?」
「きっと、妹と三銃士が仲よくなるのが気に食わないのよ」
なんとでも言いなさい。
これからわたしが直々に三銃士を教育して、マリアの理想の婚約者にするべく――。
「あの、お姉さま…」
「安心しなさい、マリア。なにも焦る必要はないんだから」
「いえ、お姉さま…」
「周りの反応なんて気にすることないわ。お姉さまが守ってあげるから」
「それがですね、お姉さま…」
「だから、大丈夫よ。マリアは堂々としていれば――」
「ですから、お姉さま!私の話を聞いてください!」
めずらしくマリアが大きな声を出した。
「いったい、どうしたのマリア?」
「リリアお姉さま、よく見てください。ダンスにお誘いされているのは、私ではございません」
「へ?マリア、なに言ってるの。三人の手はあなたに――」
…向いていない!?
よく見ると――。
なぜか、わたし!?



