剣技の参加者の格好をしているわたしを見て、カイヤがプッと吹き出す。
「おいおい、なにしにきた。お〜い、だれか。ここに迷子がいるから、早く外に――」
「だれが迷子ですって?わたくしはまぎれもなく、決勝戦の対戦相手ですわ」
「対戦相手って、女子がこんな試合に出られるわけないだろ」
「あら、ご存じないのですか?闘技大会は、女の子でも参加可能ですのよ」
とドヤ顔で言ってみたけど、実はさっきルイに教えてもらったこと。
闘技大会は、男子生徒しか参加できないという決まりはない。
ただ、男女では体格差もあり、男性有利の状況は変わらない。
そのため、いつの間にか男子生徒だけのエントリーとなり、女子生徒は観戦という今の流れになったのだ。
「女子も参加できることは、今理解したが…。まさか、お前が何人もの男子を倒して、勝ち進んできただと?」
「ええ、そうですわ。だから、この場に立っているのです」
注目のカイヤの試合は、大観客が収容できる立派なコロシアムで行われていた。
でもそれ以外、とくにわたしのトーナメント試合なんて、学院の敷地内の端で行われていたから、だれも知らない。
そこで、シード権のあるカイヤと違って、ひとりひとりを倒して地道に勝ち上がってきたのだ。
「いいウォーミングアップができましたので、体が温まりましたわ」
わたしは勇ましく剣を振るう。
しかし、カイヤはあきれ顔。
「ウォーミングアップとは笑わせる。よほど軟弱な男子と当たったか、手加減されたのだろうな。運がいい」
「運じゃないわ、実力よ!」
「あ〜、わかったわかった。ただ、悪いことは言わない。棄権しろ。オレは、これまでの対戦相手たちとは違うぞ」
カイヤは鋭い視線で、わたしに向かって剣を構えた。
「オレは甘くない。女子だろうと手加減はしない」
はいはい。
甘いのは、マリアにだけね。
「お言葉ですが、わたくしも譲れない理由がありますの。ですから、ここはわたくしが勝たせていただきますわ」
「…なっ。本気で言っているのか。辞めるなら今だぞ」
「カイヤさまこそ、無敗の成績に傷をつけたくないのであれば、今のうちにどうぞご辞退を」
「お前…、オレを見くびるな」
カイヤはギリッと奥歯を噛んだ。
「オレは忠告したぞ。後悔しても知らないからな」
「お構いなく。手加減されると興ざめですので、初めから全力でお願いしますわ」
わたしはカイヤを視界に捉えたまま、剣を構えた。
「試合開始!」
審判の合図とともに、カイヤが突っ込んできた。
得意種目なだけあって、一瞬の隙も見せずに攻め立ててくる。
カイヤからの連打の応酬で、受け止めるので精一杯。
でも、わたしには手に取るようにカイヤの動きを見切れる。
「なんだ?受け止めるだけじゃ、オレは倒せないぞ!」
カイヤがおしゃべりしてくれたおかげ、わずかに隙が生まれた。
そこを逃さず、カイヤの胸に剣を突き立てる。
「…おっと!」
しかし、かわされてしまった。
あとちょっとだったのに〜。
すると、急にカイヤが距離を取った。
「今のわずかな隙を的確に突いてくるとは…。しかも、急所を狙って」
そして、さっきまでとは違い、真剣な表情でわたしを見つめる。
「ここまできたのは、運でも偶然でもないのか…。お前、できるな」
「だから、初めから言ってるではありませんかっ」
怒ったわたしはカイヤに剣を振り下ろす。
しかし、カイヤはそれを簡単に受け止める。
「だが、未だに理解不能だ。ただの令嬢が、なぜこんなにも強いんだ」
「それは、前世のわたくしの得意武術が剣道だったからですわ!」
柔道や空手技は、お父さんやお兄さんに教わった。
そしてわたしは剣道担当で、小さいころから技をたたきこまれた。
しかも、武道一家であるがゆえ、西洋の似たようなスポーツにも興味があり、フェンシングも経験済み。
和の剣道と、洋のフェンシング。
わたしには、このふたつを組み合わせた技がある。
たしかにカイヤは強い。
これまでの対戦相手はなんだったのかと思うくらいに。
でも、ごめんあそばせ。
この世界において、わたくしが最強ですわ!
「…くっ。こんなに手ごわい相手、これまでに出会ったことがないっ」
焦りで表情をゆがませるカイヤ。
そのとき、隙が生まれた。
一秒にも満たないわずかな時間。
勝利の道筋が見えたわたしは、思いきりカイヤに胴打ちを食らわせた。
「勝負あり!勝者、リリア・フォン・アルベール!」
それを聞いて、ようやく肩の力が抜けた。
スタミナが切れかけてきたから、あれ以上やり合ったらまずかった。
「オレが…負けた?」
初めての敗北に、カイヤは放心状態だ。
予想外の試合結果に、会場内はどっと沸き起こった。
「やだ…、ウソよ!カイヤさまが負けるだなんて!」
「…信じられない。きっとこれは夢に違いないわ…!」
わたしが優勝してしまったことで、落胆と罵声が飛び交っている。
三銃士のカイヤを剣技で倒した、リリア・フォン・アルベール。
必然的に悪見立ちする。
であるならば、悪役令嬢冥利につきますわ!
それよりも、カイヤの告白イベントを阻止できたことにほっとした。
わたしが優勝したことに不満の周囲は、観客席からゴミを投げ込んでくる。
そんなもの、わたしにとってはまるで祝いのフラワーシャワーのようですわ。
華麗に手を振りながら、早速と会場をあとにした。
そして物陰に隠れると、力なくしゃがみ込んだ。
「いたた…」
顔をしかめながら、右の足首をさする。
実はカイヤとの試合の最中、足をひねってしまっていた。
立っているのもつらかったから、あの一撃をかわされていたらピンチだった。
医務室へ行きたいけれど、ひとりでは歩けない。
どうしたものかと困っていると――。
「脚光を浴びた優勝者が、こんな地味なところでかくれんぼか?」
突然、低い声がしてびっくりした。
そして、そばに黒い影が迫った。
「まさか、本当に優勝するとはな」
そう言って口角を上げるのは、ルイだった。
「足首やったんだろ?」
ルイはわたしの右足を指さす。
「なんでわかったの…?」
「見ていたらわかる」
なによ、そのなんでもお見通しみたいなスカした顔は。
「悪いけど、ちょっと肩貸してくれない?医務室まで行きたいの」
「俺がお前に肩を?そんなの面倒くせぇ」
「…だよね。頼む相手を間違えたわ――」
と言いかけたときだった。
突然、体がふわっと宙に浮いた。
「こうしたらほうが早いだろ?」
ルイの切れ長の瞳に間近で見つめられて、思わずドキッとしてしまった。
――それもそのはず。
わたしはルイに、お姫さま抱っこをされていたのだった。
「おいおい、なにしにきた。お〜い、だれか。ここに迷子がいるから、早く外に――」
「だれが迷子ですって?わたくしはまぎれもなく、決勝戦の対戦相手ですわ」
「対戦相手って、女子がこんな試合に出られるわけないだろ」
「あら、ご存じないのですか?闘技大会は、女の子でも参加可能ですのよ」
とドヤ顔で言ってみたけど、実はさっきルイに教えてもらったこと。
闘技大会は、男子生徒しか参加できないという決まりはない。
ただ、男女では体格差もあり、男性有利の状況は変わらない。
そのため、いつの間にか男子生徒だけのエントリーとなり、女子生徒は観戦という今の流れになったのだ。
「女子も参加できることは、今理解したが…。まさか、お前が何人もの男子を倒して、勝ち進んできただと?」
「ええ、そうですわ。だから、この場に立っているのです」
注目のカイヤの試合は、大観客が収容できる立派なコロシアムで行われていた。
でもそれ以外、とくにわたしのトーナメント試合なんて、学院の敷地内の端で行われていたから、だれも知らない。
そこで、シード権のあるカイヤと違って、ひとりひとりを倒して地道に勝ち上がってきたのだ。
「いいウォーミングアップができましたので、体が温まりましたわ」
わたしは勇ましく剣を振るう。
しかし、カイヤはあきれ顔。
「ウォーミングアップとは笑わせる。よほど軟弱な男子と当たったか、手加減されたのだろうな。運がいい」
「運じゃないわ、実力よ!」
「あ〜、わかったわかった。ただ、悪いことは言わない。棄権しろ。オレは、これまでの対戦相手たちとは違うぞ」
カイヤは鋭い視線で、わたしに向かって剣を構えた。
「オレは甘くない。女子だろうと手加減はしない」
はいはい。
甘いのは、マリアにだけね。
「お言葉ですが、わたくしも譲れない理由がありますの。ですから、ここはわたくしが勝たせていただきますわ」
「…なっ。本気で言っているのか。辞めるなら今だぞ」
「カイヤさまこそ、無敗の成績に傷をつけたくないのであれば、今のうちにどうぞご辞退を」
「お前…、オレを見くびるな」
カイヤはギリッと奥歯を噛んだ。
「オレは忠告したぞ。後悔しても知らないからな」
「お構いなく。手加減されると興ざめですので、初めから全力でお願いしますわ」
わたしはカイヤを視界に捉えたまま、剣を構えた。
「試合開始!」
審判の合図とともに、カイヤが突っ込んできた。
得意種目なだけあって、一瞬の隙も見せずに攻め立ててくる。
カイヤからの連打の応酬で、受け止めるので精一杯。
でも、わたしには手に取るようにカイヤの動きを見切れる。
「なんだ?受け止めるだけじゃ、オレは倒せないぞ!」
カイヤがおしゃべりしてくれたおかげ、わずかに隙が生まれた。
そこを逃さず、カイヤの胸に剣を突き立てる。
「…おっと!」
しかし、かわされてしまった。
あとちょっとだったのに〜。
すると、急にカイヤが距離を取った。
「今のわずかな隙を的確に突いてくるとは…。しかも、急所を狙って」
そして、さっきまでとは違い、真剣な表情でわたしを見つめる。
「ここまできたのは、運でも偶然でもないのか…。お前、できるな」
「だから、初めから言ってるではありませんかっ」
怒ったわたしはカイヤに剣を振り下ろす。
しかし、カイヤはそれを簡単に受け止める。
「だが、未だに理解不能だ。ただの令嬢が、なぜこんなにも強いんだ」
「それは、前世のわたくしの得意武術が剣道だったからですわ!」
柔道や空手技は、お父さんやお兄さんに教わった。
そしてわたしは剣道担当で、小さいころから技をたたきこまれた。
しかも、武道一家であるがゆえ、西洋の似たようなスポーツにも興味があり、フェンシングも経験済み。
和の剣道と、洋のフェンシング。
わたしには、このふたつを組み合わせた技がある。
たしかにカイヤは強い。
これまでの対戦相手はなんだったのかと思うくらいに。
でも、ごめんあそばせ。
この世界において、わたくしが最強ですわ!
「…くっ。こんなに手ごわい相手、これまでに出会ったことがないっ」
焦りで表情をゆがませるカイヤ。
そのとき、隙が生まれた。
一秒にも満たないわずかな時間。
勝利の道筋が見えたわたしは、思いきりカイヤに胴打ちを食らわせた。
「勝負あり!勝者、リリア・フォン・アルベール!」
それを聞いて、ようやく肩の力が抜けた。
スタミナが切れかけてきたから、あれ以上やり合ったらまずかった。
「オレが…負けた?」
初めての敗北に、カイヤは放心状態だ。
予想外の試合結果に、会場内はどっと沸き起こった。
「やだ…、ウソよ!カイヤさまが負けるだなんて!」
「…信じられない。きっとこれは夢に違いないわ…!」
わたしが優勝してしまったことで、落胆と罵声が飛び交っている。
三銃士のカイヤを剣技で倒した、リリア・フォン・アルベール。
必然的に悪見立ちする。
であるならば、悪役令嬢冥利につきますわ!
それよりも、カイヤの告白イベントを阻止できたことにほっとした。
わたしが優勝したことに不満の周囲は、観客席からゴミを投げ込んでくる。
そんなもの、わたしにとってはまるで祝いのフラワーシャワーのようですわ。
華麗に手を振りながら、早速と会場をあとにした。
そして物陰に隠れると、力なくしゃがみ込んだ。
「いたた…」
顔をしかめながら、右の足首をさする。
実はカイヤとの試合の最中、足をひねってしまっていた。
立っているのもつらかったから、あの一撃をかわされていたらピンチだった。
医務室へ行きたいけれど、ひとりでは歩けない。
どうしたものかと困っていると――。
「脚光を浴びた優勝者が、こんな地味なところでかくれんぼか?」
突然、低い声がしてびっくりした。
そして、そばに黒い影が迫った。
「まさか、本当に優勝するとはな」
そう言って口角を上げるのは、ルイだった。
「足首やったんだろ?」
ルイはわたしの右足を指さす。
「なんでわかったの…?」
「見ていたらわかる」
なによ、そのなんでもお見通しみたいなスカした顔は。
「悪いけど、ちょっと肩貸してくれない?医務室まで行きたいの」
「俺がお前に肩を?そんなの面倒くせぇ」
「…だよね。頼む相手を間違えたわ――」
と言いかけたときだった。
突然、体がふわっと宙に浮いた。
「こうしたらほうが早いだろ?」
ルイの切れ長の瞳に間近で見つめられて、思わずドキッとしてしまった。
――それもそのはず。
わたしはルイに、お姫さま抱っこをされていたのだった。



