シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

これまでの人生で出したこともないくらいの、ドスの聞いた声が飛び出した。


「ちょっと…ルイ!それってどういうことなの!?」

「どういうって、そのままの意味だろ」

「カイヤがマリアに金ブローチを!?それで婚約!?…ありえないっ!!」


わたしは髪を振り乱して発狂する。


「なにをそんなに暴れてるんだよ。婚約を迫るっていったって、この学院内じゃ、そんなのただの口約束みたいなものだろ」


たしかにルイの言うとおり。

金ブローチを渡されたからといって、正式に婚約するわけではない。


もし女子生徒側が受け取っても、あくまで学院内での恋人同士になったというだけ。

それがきっかけかもしれないけど、実際に結婚に至るわけではない。


「だから、そんなの断ればいいだけだろ」

「それができたら苦労しないわよ…」


わたしは、うなるように頭を抱えてしゃがみ込んだ。


カイヤから婚約を迫られても、断ればいいですって?


当たり前じゃない。

わたしだったらそうするわよ。


でも、相手はマリア――。


『ですが、カイヤさまのお心づかいを考えると、お断りするのがつらくて…』


…絶対、面と向かって断れないに決まってる。


だから心配で、こんなにも取り乱しているんじゃない。


「優勝する姿を見せつけて、告白したいんだろうな。あいつらしいよ」

「だったら、優勝しなかったらこの話は白紙ってことよね?」

「そういうことになるな。あいつは自分で決めたことは曲げないからな」


それを聞いて、いったんほっとした。


剣技は人気種目で、もっともエントリー数が多い種目。

その中で優勝なんて、めったにできるわけ――。


「でもあいつ、去年も一昨年も優勝してるけどな」

「なんですってー!?」


ルイの話によると、カイヤの家系は剣技に優れているのだとか。

だから、カイヤのお父さんもおじいさんも、リュミエール学院在学時には三年連続優勝を飾っているらしい。


「しかも、危なっかしい試合はひとつもなかった。どれも圧勝で優勝してる」


…なによ、それ。

カイヤ最強説すぎるじゃない。


「だから今年も、カイヤの優勝は確実だろうな。賭けにもならねぇよ」


まずい、まずい、まずい!

非常にまずいっ!!


このままだったら、カイヤが優勝しちゃう…!


「ルイ、なんとかならない!?」

「俺が知るかよ。そんなに嫌なら、カイヤの優勝を阻止する強いやつをエントリーさせるしかないな」

「じゃあルイ、あんたが参加して!」

「なんでだよ」


ソッコー断られた。

なんて冷たいやつなのかしら。


「優勝を阻止する強いやつ…」


わたしは腕を組んで考える。


「まあ、今この学院にそんなやつはいねぇよ。だから、毎年カイヤが――」

「あっ。いるじゃない」


頭の中で電球が光った。


そして、いよいよ剣技の種目が始まった。


選手は動きやすい格好に着替えて、剣闘士スタイルを意識した防具を胸や胴回りにつける。

武器は真剣ではないけど、まるで本物の剣みたいに鈍く輝いている。


剣技は一対一のトーナメント戦。


制限時間内に相手が負けを認めるか、審判の判断で勝敗が決まる。

そして、相手の剣が急所部分となる防具に触れた場合は、即刻敗退。


シンプルでわかりやすいルールだ。


気になるカイヤの初戦。

相手は、自称“ヴィオラのナイト”のゴードンだった。


ゴードンは、人並み外れた筋肉質な体格とパワーが持ち味。

もしやカイヤ、優勝候補どころか、一回戦敗退しちゃうんじゃないの?


「ゴードン、やっちゃえー!」


前にあったゴードンとのいざこざは水に流し、全力でゴードンを応援する。

ところが――。


「勝者、カイヤ!」


試合開始二秒で決着がついた。

目にも止まらぬ速さで、カイヤがゴードンの胸の防具を突いたからだ。


「キャーーー!カイヤさまー!」

「かっこよすぎるー!」


観戦したいた女子生徒たちから黄色い声援が飛ぶ。


「チッ。ゴードン、もう少しがんばりなさいよ」


そんな中、わたしはひとり舌打ちしていた。


その後、わたしの願いもむなしく、カイヤは難なく勝ち上がっていく。

そして、ついに決勝戦までやってきてしまった。


これで勝ってしまったら、カイヤの優勝が決まる。

そうなれば、カイヤはマリアに告白を――。


それだけは絶対にダメ!

なにがなんでも、絶対に阻止しないと…!


「相手がだれだろうと、優勝するのはこのオレだ」


一足先に試合会場に上がったカイヤは、余裕の表情を浮かべる。

そこへ、対戦相手が入場。


背を向けるカイヤにゆっくりと歩み寄る。

足音に気づいたカイヤが振り返る。


「きたか。オレに敗れるためだけにきた、哀れな挑戦者よ」


そう言って相手を捉えたカイヤは、間抜けなくらいに口をぽかんと開けた。


「…は?お前、なにしにきたんだ?」


カイヤは目が点。

いや、観客席やこの会場にいるすべての人が同じ顔をしていただろう。


なぜなら、決勝戦のカイヤの対戦相手とは――。


「ごめんあそばせ。わたくしがあなたのお相手をいたします、リリア・フォン・アルベールでございますわ」


そう、わたしだ。