シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

「ア、アランさまよ…!」

「うるわしすぎるわ〜!」


中庭にいた女子生徒たちは、アランのキラースマイルに次々とハートを撃ち抜かれていく。

あの微笑みは、たしかに武器だ。


「やあ、リリア姫。こんにちは」

「ごきげんよう、アランさま」


わたしはソファから立ち上がって、制服のスカートの裾をちょこんとつまんでお辞儀する。


「アランさまも中庭にいらっしゃるのですね」

「普段はあまりこないよ。でも、金髪の女の子がいるのが見えたから、マリア姫かなって思ってきてみたんだ。この前のランチでは、あんまり話せなかったしね」


おおっ、これはなかなかいい展開かも。

マリアを気にかけて、きてくれたなんて。


「そうだったのですね。ただ残念ながら、今マリアは席を外していますの」


せっかくのアランとの恋愛イベント。

発生するなら、マリアが帰ってきてからにしてくれないかな。


「ですので、また改めて――」

「いいの、いいの。リリア姫がいてくれたら、それで」


へ?


「ぼく、リリア姫のことも好きだからさ」


…“好き”!?


待って、待って、どういうこと!?

わたし、アランに好かれるようなこと…いつした!?


「オホホホホ…。アランさま、急になにをおっしゃられるのですか〜」


そもそもわたし、“好き”って言われる耐性がないんだから。


「おそらくそれは、ゲーム上のただのバグ――…じゃなくて、アランさまの勘違いではございませんか?」

「勘違いじゃないよ。キミをひと目見て、好きって思ったから銀ブローチを渡したんだから」


ひと目見て、好き…?

それって、つまり――。


「アランさまは、一目ぼれされた女子生徒に銀ブローチを?」

「うん。だから、もう二十個くらいは渡してるかな?」


…チャラ!

そんな感じはしていたけれど、やっぱりチャラかった!


「じゃあ先ほどの、“愛しのハニー”というのは…」

「ただの挨拶だよ。女の子にはみんなそう言ってる」


チャラすぎる!!


アランは、ダメ!

絶対にマリアに近づけてはいけないわ!


ここへマリアがきたら、余計にややこしくなっちゃう。


「アランさま。わたくし、用事を思い出しましたので、これで――」

「もう行くの?せっかく頼んでおいたのに」


すると、アランが指をパチンと鳴らした。

突如としてボーイが現れ、テーブルになにやら準備をしていく。


「リリア姫、こういうの好きでしょ?」


そうして、アランが甘い声で微笑む。

なんとテーブルには、アフターヌーンティーのお菓子と紅茶のティーセットが並べられていた。


これは、“ヌン活”というやつ…!

いい香りがただよう紅茶と、キラキラしたケーキや香ばしい焼き菓子が目の前に。


アフターヌーンティーなんて、まさにご令嬢っぽくて優雅すぎますわ〜!


思わず、じゅるりとよだれがこぼれそうになる。


「せ…せっかくご用意してくださったのなら、お断りするのは失礼ですわね」


言っておくけど、わたしはアフターヌーンティーにつられたわけではないからね。

アランの厚意を無駄にしてはいけないと思っただけ。


「リリア姫、どれが食べたい?ぼくが取るよ」

「では、一番上の段のフルーツタルトを」 

「これね。どうぞ」

「ありがとうございます」


意外だった。

てっきり王子だから、なんでもかんでも使用人やボーイに任せると思っていた。


でもアランは、気配りができて自ら動く。

女の子をもてなそうという、やさしい気持ちが伝わってくる。


「チャラくなかったら、いい感じなのに…」

「なにか言った?」

「いえ、なんにも!」


小声でつぶやいたつもりが、危うくアランに聞こえるところだった。

慌てて紅茶をズズズと飲む。


「リリア姫って、髪サラサラだね」

「お肌もきれい。毎日ちゃんとケアしてるんだね」

「なんだかリリア姫の隣いると、すごく落ち着くよ」


女の子慣れしているから、とにかくほめ上手。

女の子がうれしくなるすべをすべて知っているようだった。


ただわたしは、聞けば聞くほど身震いした。

これらの言葉をマリアにもかけるかと思ったら。


アランの甘いささやきも、右から左へと受け流す。


「ねぇ、リリア姫。聞いてる?」

「あ…、はい。聞いてますよー」


しかも、さっきから距離が近い。

気のせいかもとは思ったけど、絶対に初めよりも近づいている。


それにしても、このケーキおいしいな。


アランよりもケーキに夢中で、大きな口を開けて頬張った。


「リリア姫、ほんといい食べっぷりだね」


アランがクスッと笑う。

すると、向けられたアランの視線が一瞬変わったような気がした。


「リリア姫、クリームついてる」

「へ?クリーム?」


すぐに手鏡を取り出し、口元を確かめる。


「本当だ、こんなところに」


口の端についていたクリームを見つけて、ナフキンで拭き取った。


「ありがとうございます、アランさ――」


そう言って手鏡をしまって、顔を向けたときだった。

アランがうっとりとした表情で見下ろしながら、わたしのあごをそっと持ち上げた。


「ア…アランさま!?」

「悪役令嬢と距離が近すぎない!?」


周りから声が聞こえて、やっぱりわたしの勘違いではないのだと気づいた。


なに、この甘いシチュエーション…。


わたしもアランを見つめ返した――そのとき。


パァァァアアアン…!!


思ったよりも、音が響いて驚いた。

なぜなら、わたしがアランにビンタをした。