シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

二年S組のクラス中の――。

なんだったら、終礼が終わって駆けつけた他のクラスの生徒の注目を集めながら、三銃士が優雅に歩み寄る。


そして三人が足を止めたのは、マリアの前。


やっぱり!

マリアのかわいさに、ようやく三銃士が気づいたのね。


三銃士を前にして、マリアはごくりとつばを飲み込む。

取って食われるわけじゃないんだから、マリアったらそんなに緊張しなくてもいいのに。


「キミが、リリア・フォン・アルベール?」


アランがにこりと微笑んで、マリアに尋ねる。


そうそう。

目の前にいるのが、これからあなたたちの独占欲をかきたてる、マリア・フォン・アルベー――。


「…ん?」


ぽかんと開いたわたしの口から、思わず間抜けな声がもれた。


今、『リリア・フォン・アルベール』って言った?

双子だから、わたしの名前と間違えているじゃない。


ここは、正しいほうを教えてあげないと。


「アランさま。彼女は、マリア・フォン・アルベールです」

「…マリア?」

「はい。三銃士の御三方がお探しなのは、彼女でしょう?なんたってマリアは、見た目も性格も学院一――」

「じゃあ、リリア・フォン・アルベールはどの子?」


へ?

アラン、わたしの話聞いてた?


だから、あなたたちが探しているのは、リリアじゃなくてマリアでしょ。


「えっと…。リリア・フォン・アルベールでしたらわたくしですが…」

「じゃあ、キミだ」

「はい!?」


…なんで、わたし!?


「な、なにかの勘違いでは…」

「勘違いじゃないよ。ボクたちは、キミをひと目見たくてきたんだから」


そう言って、リオはにこりと笑う。


「ひと目見たいとは…、どういうことでしょうか」


おかしい、おかしい…こんな展開。

攻略の仕方がわからない。


すると、困惑するわたしの顔をおもしろそうにカイヤがのぞき込む。


「めずらしいものは、一度見てみたくなるものだろ。登校初日で大暴れしている令嬢がいると聞いたから、どんなものかと思ってな」

「…はい?」


でも、そういうことか。

なにも、わたし自身に恋愛イベントが発生しているわけではない。


彼らにとっては、希少生物を観にきたような感覚なのか。

わたしを探しにきたのは、ただの興味ってことね。


ともあれ、三銃士自らきてくれたんだから、この機会を逃すわけにはいかない!


「せっかくお越しくださったのですから、わたくしの双子の妹のマリアを紹介させてくださいな」

「お、お姉さま、なにを…!」


突然の展開に、驚くマリア。


「双子?」

「ほんとだー!髪型や瞳の色が違うだけで、そっくりだ」

「しかも、アルベール家のご令嬢か」


三銃士はまじまじとマリアを見つめる。

恥ずかしくて顔を赤くするマリアだけど、それもまた男心をくすぐるポイント。


「マリアちゃん――いや、マリア姫」


アラン…、いきなり“姫呼び”!?


「キミ、かわいいから気に入ったよ」


そう言って、アランは胸ポケットから銀ブローチを取り出した。


「えー、アランくんずるい。じゃあ、ボクもっ」

「アルベール家なら、家柄も申し分ないな」


アランに続き、リオとカイヤもマリアにブローチを差し出した。


「いきなり、セカンドレディ!?」

「しかも、一度に三つも!?」


マリアがセカンドレディに昇格することとなり、周りは騒然となる。

そんな中、わたしは感激に浸っていた。


「お待ちください、三銃士の皆さま…!」


そこへ、人をかき分けてやってきたのはヴィオラだった。


「どうして、知り合ったばかりのマリアに銀ブローチを!?」


ヴィオラのやつ、マリアが自分と同じ銀ブローチ三つのセカンドレディになるのが気に食わないのね。

さっきまでいなかったのに、こういうときだけ現れて。


すると、カイヤが無言でヴィオラに歩み寄る。

次の瞬間、その胸元から銀ブローチをはぎ取った。


「カイヤさま、…なにを!」

「どうやら、お前に銀ブローチを渡したのは、なにかの手違いだったみたいだ」


そのあとに、アランとリオもヴィオラの銀ブローチを回収する。


「ヴィオラ姫、ぼくのタイプの顔だったんだけどね。中身も美しくないと」

「聞いたよ。いじめっ子なんだってね」


あんなに自慢げに見せびらかしていたヴィオラの胸元。

でも今は、寂しいくらいになにもない。


「そんな…。あたしはセカンドレディなのに…」


すべての銀ブローチを剥奪されたヴィオラは、力なく膝から崩れ落ちた。

すると、回収した銀ブローチを手のひらに乗せた三銃士が、なぜかわたしのところへやってきた。


「やる」


ぶっきらぼうにそう言うと、カイヤが銀ブローチを差し出してきた。


「みんな、考えることは同じだね。リリアちゃん、ボクのも受け取って」

「興味があるのは間違いないからね」


こ、これは…一体全体どういうこと!?


マリアはわかるけど、ていうか当たり前だけど!

なんでわたしにも、銀ブローチが渡されるの!?


正解がわからず、いったんマリアを連れて後ろを向く。


「ね…ねぇ、マリア。これって断ってもいいのかしら?」

「な、なにをおっしゃるのですか…!三銃士からの贈り物は、絶対です!」

「え〜…」


これって、強制イベントなの?

しかも、レアアイテムだと思っていた銀ブローチが、こんなにポンポン出てくるとは。


「でも正直、ヴィオラから取ったおこぼれなんて、もらってもうれしくな――」

「シ〜…!!御三方に聞こえてしまいますわ…!」


本当は、わたしがもらったところで意味ないけど…。

断れなさそうだし、もし断ったらマリアの好感度も下がっちゃうかもしれないしね。


だから、ここは仕方なく――。


「あ、ありがたく頂戴いたしますわ」


本音が表情に表れてしまい、ぎこちなく微笑みながら三つの銀ブローチを受け取った。


そんなこんなで、不本意にもわたしもセカンドレディになってしまった。


「は〜…、終わったっ」


わたしは伸びをしながら、マリアといっしょに学院を出た。


「お疲れさまです、リリアお姉さま。久々の学院、どうでしたか?」

「疲れたけど、とっても楽しかった」

「それはよかったです。明日からもごいっしょしていただけますか…?」

「もちろん!」


わたしとマリアは見つめ合って微笑んだ。

そうして、正門で帰りの場所を待っていた。


「銀ブローチをすべて失っただと!?」


そのとき、遠くのほうから男の人の怒号が響いた。

驚いて振り返ると、今にも殴りかかりそうな勢いで、男の人が赤髪の女子生徒を叱責している。


「お姉さま、あの方って…」


マリアがわたしの袖をちょこんとつまむ。

一方的に怒鳴られてかわいそうな女の子は、よく見ると知った顔だった。


もしかして、…ヴィオラ?