「あなた、だれ?どこからきたの?」
気づいたら目の前に立っていたから驚いた。
すると、彼は真上を指さした。
「上」
「上?」
見上げると、太い枝を伸ばす木が見えた。
「ここ、俺のお気に入りの昼寝場所。それなのに、下でケンカが始まるからうるさくて目が覚めた」
「ケンカって、わたしはただ巻き込まれただけの、か弱き令嬢よ」
「どうだか。生き生きしてただろ」
…うっ。
すべてを見られていたか。
「それよりも、立てるか?」
しゃがみ込むわたしに向かって、彼が手を差し伸べてきた。
無愛想で一見冷たそうな目をしているけれど、意外とやさしい…?
「あ、ありがとう」
遠慮がちにその手を握る。
「驚いた。案外、素直なんだな」
「え?」
「あんたのことだろ?朝から男子に飛び蹴りし、セカンドレディのヴィオラを言い負かした、金髪縦巻きロールの悪役令嬢って。朝から噂になってるぞ」
…なっ。
「だれが、“金髪縦巻きロール”よ!」
「どう見てもそうだろ。つーか、怒るとこ、そこ?フツーは“悪役令嬢”だろ」
「そこは否定しないわ。だってわたし、悪役令嬢やらせてもらっているので」
「“やらせてもらっている”?なんだよ、それ」
彼はクスッと笑った。
見た目と違って、そんなふうに笑ったりするんだ。
「てっきりさっきも、『わたしに触れようとするなんて何様のつもり?』なんて言われると思ったけど」
「そんなこと言ったりしないわよ。『親切にされたときはお礼を言う』。それくらい、前世で両親から教わってるんだから」
「前世?」
「…あ」
しまった。
思わず口が滑ってしまった。
「え、え〜っと…。前世っていうのは、その…昔の話ってこと!」
「ふ〜ん…」
目を細めて見てくる彼を、わたしは笑ってごまかした。
「それに、この件もわたしは悪くないのよ。もとはと言えば、マリアをいじめていたヴィオラが悪いんだから」
「マリアって?」
「わたしの双子の妹。ものすんごーーーく、かわいいんだから!でも、間違ってもほれちゃだめよ。マリアには、わたしがふさわしい王子を選んで――」
「あー、はいはい。わかったわかった」
せっかくマリアの魅力を語ってあげようと思ったのに。
「で、なんでゴードンと一騎打ち?」
「妹を守るためにヴィオラをこらしめたら、その逆恨みでゴードンを寄こしてきたのよ。結果的に、わたしが返り討ちにしちゃったけどね」
わたしはウィンクして、舌をペロッと出した。
「なに、かわい子ぶってんだよ。ゴードンを打ち負かす令嬢なんて、聞いたことねぇよ」
「でもあなたがいなかったら、今ごろどうなっていたかわからないわ。助けてくれて、ありがとう」
お辞儀をすると、彼はそっぽを向いた。
「べつに助けたわけじゃない。ルールを守れないやつが嫌いなだけだ」
そう言って、ゴードンを見下ろす。
「ふたりともこっちよ〜」
そのとき、校舎裏から声が聞こえてきた。
この声は、ヴィオラだ。
「それじゃあ、俺は行く」
「あっ、待って!せめて、名前を――」
わたしが彼の背中に向かって声を発すると、一瞬立ち止まってくるりと振り返った。
「ルイ」
それだけ言って、ルイは去っていった。
ルイ…か。
この学院で、悪役令嬢だからといって色眼鏡で見てこなかったのはルイが初めてだ。
「あの悪役令嬢、今ごろゴードンにコテンパンにされてるんだから〜……げっ!なんなの、これ!?」
角から現れたヴィオラは一目見た瞬間、一瞬にして顔を引きつらせた。
「ごきげんよう、ヴィオラさん。それと、あとのおふたり」
マリアをいじめていた三人を前に、わたしはのんきに気絶しているゴードンをベンチにして座っていた。
「キャーーーー!ゴードンさん…!」
「だれかー!悪役令嬢がーー!!」
ゴードンが倒され、ヴィオラは意気消沈。
代わりに、他のふたりが悲鳴を上げた。
「なんだなんだ?」
それを聞きつけた他の生徒も裏庭へとやってくる。
「見てみろ、あれ!」
「あの悪役令嬢が…ゴードンをボコボコに!?」
「…そんな、まさかっ。どんな卑怯な手を使ったんだ!」
訳を知らない周りは口々に話す。
そんな人たちは無視して、わたしはゆっくりとヴィオラのもとへ向かった。
「ヴィオラ。わたしのことがムカつくのなら、だれかに頼るんじゃなくて自分できなさい。相手してあげるから」
わたしはフンッと鼻を鳴らして、ヴィオラに背中を向けた。
これでようやくステーキが食べられる〜!
食堂に戻ると、さっきの席でうつむくマリアがいた。
「マリア、お待たせ」
「…リリアお姉さま!」
わたしに気づくと、マリアの瞳がうるうると揺れた。
「ご無事ですか…!?おケガはされていませんか!?」
「大丈夫、大丈夫。それよりも、おかわりのステーキを――」
だが、しかし…!
とっくにラストオーダーが終わっていて、カウンターが閉まっていた。
「そ、そんな…」
わたしは膝から崩れ落ちる。
「リリアお姉さま、しっかりしてください…!」
「わたしの…、わたしの…ステーキが…」
「また明日食べましょう。ねっ」
おのれ…、ヴィオラとゴードン。
絶対に許さん。
その後、教室に戻って五時間目と六時間目の授業を受ける。
「終わった〜!」
終わりのチャイムが鳴って、わたしはぐーんと腕を伸ばした。
学校で授業を受けるなんて久しぶりだったから、すごく楽しかった。
そういえば、あの三人は結局また欠席だったな。
心の中でつぶやきながら、ヴィオラたちの空席を見つめる。
――そのときだった。
「「キャー!」」
「ど、どうしてこのクラスに!?」
廊下側の席から甲高い声が響いた。
驚いて顔を向けると、なんと三銃士がドアのところから教室内をのぞき込んでいた。
突然の三銃士の登場に、クラスの中は軽くパニック状態だ。
「いったい、どうされたのですか!?」
「このクラスに、なにかご用意ですか?」
クラスメイトの女の子たちが、ドキドキしながら話しかける。
「うん。ちょっと人を探しているんだ」
「このクラスかな〜って思って」
「おっ!いたぞ、金髪。あれじゃないか?」
そうして、三銃士が教室の中へと入ってきた。
しかも、なぜかわたしのほうへ向かってきている気がする。
でも、冷静に考えたらそんなはずはない。
だって、わたしリリアはプリアカのヒロインではないのだから。
ということは、彼らのお目当ては、きっとわたしの隣の席のマリアだ!
これはもしかして…!
さっそく恋愛イベント発生!?
気づいたら目の前に立っていたから驚いた。
すると、彼は真上を指さした。
「上」
「上?」
見上げると、太い枝を伸ばす木が見えた。
「ここ、俺のお気に入りの昼寝場所。それなのに、下でケンカが始まるからうるさくて目が覚めた」
「ケンカって、わたしはただ巻き込まれただけの、か弱き令嬢よ」
「どうだか。生き生きしてただろ」
…うっ。
すべてを見られていたか。
「それよりも、立てるか?」
しゃがみ込むわたしに向かって、彼が手を差し伸べてきた。
無愛想で一見冷たそうな目をしているけれど、意外とやさしい…?
「あ、ありがとう」
遠慮がちにその手を握る。
「驚いた。案外、素直なんだな」
「え?」
「あんたのことだろ?朝から男子に飛び蹴りし、セカンドレディのヴィオラを言い負かした、金髪縦巻きロールの悪役令嬢って。朝から噂になってるぞ」
…なっ。
「だれが、“金髪縦巻きロール”よ!」
「どう見てもそうだろ。つーか、怒るとこ、そこ?フツーは“悪役令嬢”だろ」
「そこは否定しないわ。だってわたし、悪役令嬢やらせてもらっているので」
「“やらせてもらっている”?なんだよ、それ」
彼はクスッと笑った。
見た目と違って、そんなふうに笑ったりするんだ。
「てっきりさっきも、『わたしに触れようとするなんて何様のつもり?』なんて言われると思ったけど」
「そんなこと言ったりしないわよ。『親切にされたときはお礼を言う』。それくらい、前世で両親から教わってるんだから」
「前世?」
「…あ」
しまった。
思わず口が滑ってしまった。
「え、え〜っと…。前世っていうのは、その…昔の話ってこと!」
「ふ〜ん…」
目を細めて見てくる彼を、わたしは笑ってごまかした。
「それに、この件もわたしは悪くないのよ。もとはと言えば、マリアをいじめていたヴィオラが悪いんだから」
「マリアって?」
「わたしの双子の妹。ものすんごーーーく、かわいいんだから!でも、間違ってもほれちゃだめよ。マリアには、わたしがふさわしい王子を選んで――」
「あー、はいはい。わかったわかった」
せっかくマリアの魅力を語ってあげようと思ったのに。
「で、なんでゴードンと一騎打ち?」
「妹を守るためにヴィオラをこらしめたら、その逆恨みでゴードンを寄こしてきたのよ。結果的に、わたしが返り討ちにしちゃったけどね」
わたしはウィンクして、舌をペロッと出した。
「なに、かわい子ぶってんだよ。ゴードンを打ち負かす令嬢なんて、聞いたことねぇよ」
「でもあなたがいなかったら、今ごろどうなっていたかわからないわ。助けてくれて、ありがとう」
お辞儀をすると、彼はそっぽを向いた。
「べつに助けたわけじゃない。ルールを守れないやつが嫌いなだけだ」
そう言って、ゴードンを見下ろす。
「ふたりともこっちよ〜」
そのとき、校舎裏から声が聞こえてきた。
この声は、ヴィオラだ。
「それじゃあ、俺は行く」
「あっ、待って!せめて、名前を――」
わたしが彼の背中に向かって声を発すると、一瞬立ち止まってくるりと振り返った。
「ルイ」
それだけ言って、ルイは去っていった。
ルイ…か。
この学院で、悪役令嬢だからといって色眼鏡で見てこなかったのはルイが初めてだ。
「あの悪役令嬢、今ごろゴードンにコテンパンにされてるんだから〜……げっ!なんなの、これ!?」
角から現れたヴィオラは一目見た瞬間、一瞬にして顔を引きつらせた。
「ごきげんよう、ヴィオラさん。それと、あとのおふたり」
マリアをいじめていた三人を前に、わたしはのんきに気絶しているゴードンをベンチにして座っていた。
「キャーーーー!ゴードンさん…!」
「だれかー!悪役令嬢がーー!!」
ゴードンが倒され、ヴィオラは意気消沈。
代わりに、他のふたりが悲鳴を上げた。
「なんだなんだ?」
それを聞きつけた他の生徒も裏庭へとやってくる。
「見てみろ、あれ!」
「あの悪役令嬢が…ゴードンをボコボコに!?」
「…そんな、まさかっ。どんな卑怯な手を使ったんだ!」
訳を知らない周りは口々に話す。
そんな人たちは無視して、わたしはゆっくりとヴィオラのもとへ向かった。
「ヴィオラ。わたしのことがムカつくのなら、だれかに頼るんじゃなくて自分できなさい。相手してあげるから」
わたしはフンッと鼻を鳴らして、ヴィオラに背中を向けた。
これでようやくステーキが食べられる〜!
食堂に戻ると、さっきの席でうつむくマリアがいた。
「マリア、お待たせ」
「…リリアお姉さま!」
わたしに気づくと、マリアの瞳がうるうると揺れた。
「ご無事ですか…!?おケガはされていませんか!?」
「大丈夫、大丈夫。それよりも、おかわりのステーキを――」
だが、しかし…!
とっくにラストオーダーが終わっていて、カウンターが閉まっていた。
「そ、そんな…」
わたしは膝から崩れ落ちる。
「リリアお姉さま、しっかりしてください…!」
「わたしの…、わたしの…ステーキが…」
「また明日食べましょう。ねっ」
おのれ…、ヴィオラとゴードン。
絶対に許さん。
その後、教室に戻って五時間目と六時間目の授業を受ける。
「終わった〜!」
終わりのチャイムが鳴って、わたしはぐーんと腕を伸ばした。
学校で授業を受けるなんて久しぶりだったから、すごく楽しかった。
そういえば、あの三人は結局また欠席だったな。
心の中でつぶやきながら、ヴィオラたちの空席を見つめる。
――そのときだった。
「「キャー!」」
「ど、どうしてこのクラスに!?」
廊下側の席から甲高い声が響いた。
驚いて顔を向けると、なんと三銃士がドアのところから教室内をのぞき込んでいた。
突然の三銃士の登場に、クラスの中は軽くパニック状態だ。
「いったい、どうされたのですか!?」
「このクラスに、なにかご用意ですか?」
クラスメイトの女の子たちが、ドキドキしながら話しかける。
「うん。ちょっと人を探しているんだ」
「このクラスかな〜って思って」
「おっ!いたぞ、金髪。あれじゃないか?」
そうして、三銃士が教室の中へと入ってきた。
しかも、なぜかわたしのほうへ向かってきている気がする。
でも、冷静に考えたらそんなはずはない。
だって、わたしリリアはプリアカのヒロインではないのだから。
ということは、彼らのお目当ては、きっとわたしの隣の席のマリアだ!
これはもしかして…!
さっそく恋愛イベント発生!?



