シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

リュミエール学院の三銃士――。

プリアカのゲーム上、マリアの婚約者候補となる男子キャラたちは、生で見るとさらに破壊力抜群のかっこよさだった。


「三銃士を見れて、今日は幸運な日だわ〜」

「ええ、ほんとに。欲を言えば、“あの方”もお目見えできたらよかったのだけれど」


三銃士をうっとりと眺める女の子たちの中から、そんな声が聞こえてきた。


「ねぇ、マリア。三銃士以外に、まだ他にだれかいるの?」

「はい。私も詳しくは知らないのですが、“キング”さまも人気です」

「キングさま?」


どうやらこの学院には、三銃士と肩を並べるハイスペ男子が存在するのだとか。

それが、“キング”。


キングは、神出鬼没でいつどこに現れるかわからない。


どうやら、この学院の理事長の関係者らしい。

わたし以上に好き放題にやっても卒業資格は確保されているため、めったに学院にもやってこない。


だから、学院を牛耳る陰の支配者とも呼ばれ、その存在は謎に包まれている。


「なによ、それ」


わたしは小さく笑ってしまった。


陰の支配者だなんて、まるで七不思議のような、嘘か本当かもわからないような話。

もしかしたら、夢見る女の子たちが妄想で創り上げて、それがひとり歩きしているだけかもしれない。


マリアも、キング本人は一度しか見たことがないのだとか。


「そんな人がいるなら、ぜひともお会いしてみたいわ」


と口にしたとき、なにかが頭の中で引っかかった。


…そういえば、“キング”という名前には聞き覚えがある。


たしか、プリアカのシークレットキャラがキングと呼ばれていたような。


ただ、特別な条件がそろわないと出てこないらしい。

あまりにもレアで、バグではないかという噂もあった。


ひとまず、そんな訳もわからないキャラはいったん忘れて、三銃士に狙いを定めよう。

スペックだけでいったら、どれも十分マリアにふさわしいから。


銀ブローチをゲットして、まずはヴィオラに追いつかなくっちゃ!


プレイしていたころは、だれと結ばれようかと真剣に悩んだものだ。

体験版では恋愛イベントも途中までだったから、今後の展開が楽しみだ。


寄り道してしまったけど、そのあと食堂へとやってきた。

でもそこは、わたしが想像するような食堂とは大違いだった。


両開きの扉を開けると、ダンスホールかと思うような広さの空間が広がっていた。


等間隔で並べられた、真っ白なクロスを敷かれた丸いテーブル。

見上げるほど高い天井には、食堂を柔らかい明かりで照らす大きなシャンデリア。


料理はすべてバイキング形式で、高級ホテルにきたかと錯覚するほど。


「わ〜、おいしそう!待って、これもおいしそう!」


並ぶ料理すべてが気になって、お皿に置くスペースがない。


「リリアお姉さま、たくさん食べられるのですね」

「だって、全部おいしそうなんだもん。決めきれない」

「お料理は逃げませんから、二回目に取られてはいかがですか?いったん、お席にてお食事にしましょう」


席に戻る前に、トリュフのかかったパスタも取りたかったけど…。

マリアが言うなら仕方ない。


「いただきます!」


わたしは手を合わせると、さっそくフォークとナイフを握った。


「いざ!」


ステーキやローストビーフなど、入院中に食べられなかったものを中心にたくさん取った。


「おいしい…!すごくおいしいっ!」

「リリアお姉さまったら、学食で涙を流されるなんて、そんな方初めて見ましたわ」


感激のあまり涙するわたしを見て、マリアはクスッと笑った。


おかずだけでお腹いっぱいだけど、デザートは別腹。


ショートケーキにパンケーキ、プリンにシュークリーム。

ドリンクも、ジュースやコーヒーが飲み放題。


「ごちそうさまでした」


わたしがフレンチトーストを頬張っているとき、向かいに座るマリアが静かに手を合わせた。


「マリア、もう食べないの?」

「はい。お腹がいっぱいですので」


お腹に手を添え、恥ずかしそうに微笑むマリア。


いっぱいといっても、わたしの半分ほどしか食べていないような気がする。

いや、わたしが食べすぎなだけ?


「わたしもデザートまで食べたけど…。やっぱり最後に、サーロインステーキだけもう一度!」


そう言って、再びステーキを取りに行こうと席を立ったときだった。

周囲がざわつき、なぜか視線がわたしに向けられた。


そんなに注目を浴びるほど、なにか変なことでも言っただろうか。 


そばにいるマリアまで、顔を引きつらせて固まっていた。


「お…お姉さま、後ろ…」

「後ろ?」


マリアが震えながら指さすものだから、わたしはくるりと振り返った。


すると、そこにいたのは、そり立つ壁のようにしてわたしを見下ろす大柄な男。

引き締まった筋肉質の体のせいで、シャツがピチピチでボタンが弾け飛びそうだ。


だれ?


規格外の体の大きさで、ムキムキの体育の先生かと思った。

でも、学院の制服を着てるってことは、リュミエール学院の生徒みたい。


「お前がリリア・フォン・アルベールだな?」

「そうだけど、なにか用?わたくし、サーロインステーキを食べたいのだけれど、そこ、どいてくださるかしら?」


そう言って、男を押しのけようとしたけれど、その腕を握られた。


「いっしょに表に出てもらおうか」


男がわたしを見下ろす。


「どうして?わたくし、そんなに暇じゃなくってよ」


フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

だけど、つかまれた手を振りはらえない。


…強い。


「仕方ないわね。ただっ!ステーキを食べる時間は残しておいてよね。絶対よ!」


噛みつくようにして、男に言って聞かせる。


「じゃあ、マリア。ちょっと行ってくるわね」


そう告げたとたん、突然マリアが立ち上がった。

その拍子に、イスが派手に倒れる。


「どうかしたの?マリア」

「お姉さま、行ってはいけません…」


マリアは声を震わせ、明らかに怯えている。


…行ってはいけないって、どういうこと?