シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

「先ほど、わたくしのお話、してくださっていましたよね?」


わたしはニヤリと微笑みながら、怪しい視線を送った。


「リ…、リリア・フォン・アルベール…」


ヴィオラたちの顔が瞬時に凍りつく。


その表情がたまんな〜い。


わたしにとってはおいしくて、思わず不敵な笑みを浮かべてしまう。


「わたくしのことをご存じだなんて。とっても光栄ですわ」


これでもかというほどにっこりと微笑み、立ち居振る舞い美しく、ゆっくりと歩み寄る。


「お姉さま…!」

「遅くなっちゃってごめんね、マリア」


強張っていたマリアの表情がゆるむ。


「あなた…、どうしてここへ。シュタイン先生に連れていかれたはずじゃ――」

「あら?わたくしがここにいると、なにかまずいことでもありますの?」


ニヤリとして、三人の顔をのぞき込む。


「わたくしもこのクラスの生徒なのですから、どうぞ仲よくしてくださいまし」


そう言って、わたしは彼女たちと固い握手を交わした。

固く、固く、骨が折れるかと思うくらいに。


「…い、痛い!なにするの!」

「え?ただの握手ですけれど?」


きょとんとして、とぼけてみせる。

握力には自信がありますの。


それに、マリアが受けた心の傷はそんな生易しい痛みじゃないわ。


「…でもリリアさん、どうして今さら学院へ?」


ヴィオラの左隣の女の子が、おそるおそるわたしに尋ねる。


「フフフ、マリアから聞きましたの。このクラスには、楽しいお友達の方々いると。ですから、わたくしもきてみたくなって」


わたしは、彼女たちから視線を外すことなく一歩詰め寄る。


「どうやら、妹のマリアがいつもお世話になっているようで。例えば…」


小さくつぶやいたわたしは、教室の窓際に飾られていた一輪挿しの花瓶を手に取った。

そして、尋ねてきた女子生徒のもとへ行き――。


「マリアを水たまりに突き飛ばしたり」


そう言って、頭の上から花瓶の水をかけてやった。


「…きゃっ!なにするのよ…!」


驚いて、その生徒は尻もちをついた。


「それに、マリアのスクールバッグが壊れるくらいにボロボロにしたり」


そうして次は、反対側にいた女子生徒の肩からかけていたポシェットに手を伸ばす。

その瞬間、肩紐の留め具の金属部分から思いきり引きちぎってやった。 


「いやぁぁああああ!!アタシのお気に入りのポシェットがぁ…!!」


悪役令嬢のわたしにとっては、その悲鳴ですらも心地いい。


残るはヴィオラ、あなただけよ。


「それだけじゃなく、マリアが一生懸命につくったハンカチをズタズタにしてくれましたわよね」


一瞬表情を固くしたヴィオラは舌打ちをして、鋭い目つきをマリアを向ける。


「マリア、あんた!チクったわね――」


と言いかけた彼女の両頬を、わたしは片手で鷲づかみにした。

そして、ヴィオラにしか聞こえないくらい声量で語りかける。


「わたしがいないのをいいことに、大事な妹をいじめてんじゃないわよ」


ドスの聞いた声で、ヴィオラをにらみつける。

すると、ヴィオラも負けじとにらみ返してきた。


「…な、なによ。あんた、あたしに楯突く気?」


急に強気になったヴィオラがわたしを突き飛ばす。


「これが目に入らないの?あたしは銀ブローチを三つも持つ、セカンドレディよ!」


ヴィオラはこれ見よがしに、左の胸元に着けられた銀色に輝く三つのバラのブローチに手を添える。


「もしかして…、それは…!」


この銀ブローチは、イケメン王子たちが気になる女の子に渡すアイテムだ。

好感度が上がるともらえる設定で、ひとつでも銀ブローチを持っていれば『セカンドレディ』とランク付けされる。


そして、好感度MAXになったら金ブローチを渡され、『ファーストレディ』という名の称号を得る。

それがプリアカのゲームのエンディングで、晴れて王子の恋人になれる。


銀ブローチはレアアイテムで、ひとつでもつけていれば、周りから一目置かれる存在となる。

そして、この世界でも似たような設定があるみたい。


銀ブローチを持っているか、またいくつ持っているか。

それが学院でのステータスになり、周りの女の子はヴィオラにあこがれを抱いているようだった。


「これがあのブローチ…!本物だ〜!見せて、見せて!」

「き…気安く触るんじゃないわよ…!」


わたしが目の色を変えて近寄ってくるものだから、ヴィオラが若干引いている。


でも、三つも持っているということは、三人の王子たちからそれぞれもらったってこと?

マリアをいじめるようなやつなのに、そんなにヴィオラって魅力的?


主人公マリアの恋愛キャラの王子たちのはずなのに、女の子を見る目がないのかな。

大丈夫か?


「そうよ!ヴィオラちゃんはセカンドレディなんだから」

「やっちゃえ、ヴィオラちゃん!」


ヴィオラの気迫に、こらしめたさっきのふたりが元気を取り戻した。


「悪役令嬢のあんたが、セカンドレディのあたしに意見することすらおこがましいのよ。恥を知りなさい!」

「恥?セカンドレディだかなんだか知らないけど、それとこれとは話は別」


わたしはうなるような低い声を発すると、ズンッとヴィオラに迫った。


「そろそろお黙りなさい。でないと、そのはしたないお口、わたしが刺繍してさしあげましょうか?」


口角がつり上がるくらいに、ニンマリと笑ってみせる。

それを見たヴィオラたちの顔から血の気が引くのがわかった。 


「あんた、頭おかしいんじゃないの…!?」

「パパに言いつけてやるんだから〜!」


ヴィオラのそばにいたふたりは、泣きべそをかきながら逃げていった。


ただ、ヴィオラは他のふたりとは違って、反抗的に舌打ちをする。

よほどプライドが高いようだ。


「…覚えてなさい。あんたなんて、明日からまた学校にこられなくしてやるんだからっ」


ヴィオラは意味深な捨て台詞を吐くと、そばにあった机を蹴飛ばしていった。


「おー、こわ。わたし以外に野蛮なご令嬢、他にもいるじゃない」


ヴィオラの後ろ姿を見ながらつぶやいた。


「それにしてもマリア、大丈夫だった?」

「はい、お姉さまのおかげです。ありがとうございます」


マリアはまた、反則級のかわいらしい微笑みを見せてくれる。

それだけでわたしの励みになる。


「でもお姉さま、ヴィオラさんのさっきの言葉…」

「気にしなくてもいいわよ。どうせ、負け犬の遠吠えなんだから」


わたしは、フンッと鼻を鳴らした。


ちょっとこらしめてやったから、しばらくはなにもしてこないでしょう。


そう思っていたのだけれど、さっきの言葉の意味はあとからわかることになるのだった。