シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜

次の日。


わたしはいつもより早く起きた。

なぜなら今日は、決戦の日だから。


ほら、見て。

カーテンを開けたら、わたしを応援してくれるかのように太陽の光が照らしてくれる。


スポットライトかのような日光を背中に浴び、部屋にある大きなクローゼットへと向かった。

ここには、何着ものドレスがかけられている。


ぱっと目につくのは、リリアの普段着になる派手な色のドレスの数々。

でも今日は、それらはスルー。


端のほうにぽつんと寂しくかかっていた、白い制服を取り出した。

袖を通し、姿見の前でくるりと回ってみせる。


清潔感ただようミモレ丈のスカートがひらりと舞った。


なつかしい。

リリアは常にドレス姿だから、この世界にきてからこれを着る機会がなかったのよね。


「リリアお嬢さまがこの制服を着られるのは、入学式以来ではございませんか?」

「…アハハ、そうかもね」


朝の身支度を手伝ってくれているばあやに、ぎこちなく笑う。


リリアって、そんな前から登校拒否してたんだ。

だけど今日は、久々にその学院に行く。


「…まさかリリアちゃんが、またその制服を着てくれる日がくるなんて。ママ、感激!」

「ああ。普段と雰囲気も違っていいじゃないか」


朝ごはんのときは、リリアがこの白い制服を着ただけで、両親は目に涙を浮かべていた。

そんな大げさな。


この制服は、マリアが通う(一応リリアも在籍している)リュミエール学院のもの。


リリアが好んで着る赤や黒のドレスと違って、落ち着いて見える。

ゲームで何度も見たあこがれの制服を着れて、わたしはワクワクしていた。


「それにしても、リリアが学院に行きたいだなんて、どういう風の吹き回しだ?」

「ま…まあ、たまには幅をきかせにいかないとね」


マリアの思いをくんで、マリアが学院でいじめられていることは両親には言わない。

わたしは笑ってごまかした。


そうして、準備ができるとマリアといっしょに馬車に乗り込んだ。


わたしがいるから、今日からマリアの護衛はなし。

前にマリアが提案してくれたように、やっぱりわたしが自分で護衛に名乗り出ればよかったわ。


「マリア、そんな顔しないで」


馬車の中で、うつむくマリアに声をかける。


「リリアお姉さま…」

「今日はわたしがいるのよ?堂々としていればいいわ」


わたしは、胸をどーんとたたいてみせた。


馬車に揺られること、十数分。

リュミエール学院に到着。


「お姉さま、大丈夫ですか…?」

「うっ…、うぅ〜…」


勇ましく登場のはずが、わたしは初めての馬車に乗り物酔いしてしまった。

そういえば、前世でも乗り物が苦手だったことを思い出す。


進行方向と反対向きに座っていたのがダメだったわね。

マリアにお願いして、帰りは場所を変えてもらおう。


「お姉さま、お吐きになられますか?それなら袋を――」

「…なっ、ななななにを言ってるの、マリア。お姉さまが吐くわけないでしょう?」


袋を準備しようとするマリアの腕を握って、ニッと笑ってみせた。

…本当は気持ち悪いけど。


でもこんな情けない姿、だれにも見せられないわ。


わたしは背筋を伸ばすと、口角を上げて表情をつくった。


「リリアさまのご登場よ」


そう言って、一番に馬車から降りた。

そして顔を上げたわたしは、思わず感嘆の声をもらした。


「…うわぁ〜!」


目の前には、レンガ造りの高くそびえ立つ校舎。

体験版で見たままの本物のリュミエール学院に、感動して静かに息をのむ。


こないつもりだったのに、きちゃった。

これがリュミエール学院!


すると、周りからざわめきが聞こえた。


「あれって…、だれ?」

「隣にいるのはマリアよね?ヘアスタイルが違うけど、あのふたり…同じ顔してない?」

「…ということは、まさか!あれが登校拒否していると噂の、マリアの双子の姉――」


周囲が驚くのも無理はない。

入学初日から一度も出席したことのなかったリリア・フォン・アルベールが、初めて学院に姿を現したのだから。


「たしかリリアって、家でも外でもわがままで傲慢な悪役令嬢らしいわよ」

「ヤダ〜…。それなら、ずっと家に引きこもっていればいいのに」


周りは口々にそんな話をする。


「お姉さま、大丈夫ですか…?」


批判的な言葉の数々に、やさしいマリアは心配してくれる。

だけど、うつむくわたしは、にやける顔を悟られないようにするのに精一杯だった。


なぜなら、登校初日から悪名高ければ、いじめっ子たちへのいい牽制になる。


「さあマリア、行くわよ!」


校舎を指さし、意気揚々とズカズカと正門をくぐった。

ところが、すぐにピタリと足を止める。


「…で、マリア。わたしのクラスってどこかしら?」


マリアとは同じクラスらしいけど、初めて登校するわたしはそもそも自分の教室の場所さえも知らなかった。


「お姉さま、こちらですよ」


そんなわたしを見て、後ろから歩いてくるマリアはクスクスと笑っている。


よかった、マリアが笑ってくれて。


そう安心したのも束の間――。


「よう、マリア・フォン・アルベール」


そんな声が聞こえて顔を向けると、マリアの後ろにふたりの男の子が立っていた。


ネイビーのブレザーにチェック柄のパンツの制服姿。

この学院の生徒だ。


このふたり、なんだか意地悪な顔している。


わたしのレーダーが即座に察知する。


「さっきそこで、いいものを拾ったんだ」

「かわいいから、ティアラみたいに頭につけてやるよ」


そう言って、マリアの髪につけたのは――。

なんと、クネクネと動く二匹の緑色のイモムシだった!


「…キャッ。い、いやっ…」


マリアは、虫が大の苦手。

恐怖に震え、しかし自分で取ることもできずにその場にうずくまる。


――『私が我慢すればいいだけですから』


そのとき、無理して笑うマリアの顔が頭に浮かんだ。


「ハッハッハッ!お似合いだぜ!」


マリアが嫌がっているというのに、ふたりはケラケラと笑い合う。

その瞬間、わたしの中でなにかがプッツンと切れる音がした。


お腹を抱えて笑っていたふたりは、そばにいたわたしの存在にようやく気づく。


「なんだ、こいつ?」

「見ない顔だな。何年何組――」


と言うやいなや、わたしは高く飛び上がった。


「マリアをいじめているのは、お前たちかーっ!!」


問答無用。

鬼の形相で、男子生徒ふたりに強烈な飛び蹴りを食らわせた。


――どよめき、後ずさりする観衆たち。


その視線の先には、スカートの汚れをはたくわたしの姿。

そして、わたしの足元には、飛び蹴りを食らって気絶するふたりの男子生徒。


フンッ、どんなもんよ。