軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜




 この日、離れには凪の着物を仕立てるため、着物職人が来ていた。
「軍の慰労の宴がある。そこへ来ていく着物を選びなさい」
 凪の採寸を終えると、将臣は生地を選ばせた。
 将臣の隣で凪はある生地に手を伸ばす。
「私、この薄梅色が素敵だと思います」
 凪は、頬を上気させていた。隣で将臣は静かに呟く。
「……悪くないが、少し地味だな」
「え? そうでしょうか」
「もっと似合うものがある」
 将臣が反物の中から、一枚を選び出す。
「……これだな」
 それは淡い藤色だった。
「私には、華やかすぎます」
 凪は手を小さく振って謙遜する。
「いや、お前はいつも控えめすぎる」
「さすが旦那様でございます。奥様にお似合いの色をよくご存じで」
 職人も小さく頷いていた。
 凪はじっとその生地を見つめた。
(こんなに高貴なお色が、私に合うと言ってくださるなんて)
 凪は、姿勢を正した。
「私も気に入りました。これでお願いします」
(大事にされている。本当にありがたいわ)
 凪は自分の胸元へ当て布をする。出来上がりを想像して、笑顔が弾けた。
(……可愛い)
 将臣は、一瞬、顔を赤らめる。
(ここはきちんと言葉で伝えねば!)
 将臣は一度咳払いをする。そして、口から出たのは、
「……思ったより、小柄なんだな」
 だった。
「将臣様の背が、お高いだけです」
 凪は鈴を転がしたように笑った。

 職人を見送り、部屋に戻る際、凪は将臣を呼び止めた。
「これ、お礼です」
 差し出された手には、結菓子がちょこんと乗っていた。
 将臣の頬が緩くなる。
「ちょうど、食べたい頃だったんだ」
 凪から受け取ると、それを大事に握りしめた。
「では、私は外回りのお掃除をしてきます」
 その足取りは軽かった。

 将臣はやってきた結丸を抱き上げ、薬草の畑を見ていた。
「……私は情けない男だ。いつも、肝心な言葉が言えんのだ」
 結丸が慰めるように、そっと将臣の手を舐めた。