僕は、ここにいてもいいですか。

今、僕の目の前に、顔を赤らめてうつむいている女子がいる。
場所は人気の少ない放課後の渡り廊下。
この状況からして次に彼女が発する言葉は、僕が思い描いているものに十中八九、間違いないだろう。
そして、僕はその先の『言い訳』を考えている。
「君島くんのことが、ずっと好きだったの……」
ほら、やっぱりね。
恥ずかしさと緊張のあまり顔を上げられない彼女を見つめながら、予想どおりの彼女の言葉に僕は大きく息を吐いた。
さあ、次は僕の番だ。
「ありがとう。気持ち、すごく嬉しいよ……だけど」
僕が逆接の接続詞を発したとたん、彼女はさらにうつむき、唇をかみしめた。
こんなにつらそうな表情をされると、僕だって、つらい。
だけど、ちゃんと振ってあげるのもまた、優しさというものだ。
そして振られる理由は、これが一番納得がいく。
「好きな人がいるんだ」
僕の言葉に、彼女は何度も首を縦に振った。
そして、痛々しいほどに無理して作った笑顔を僕に向け、
「気持ち、伝えられてよかった。聞いてくれてありがとう」
と言って、走り去っていった。
僕は走り去る彼女の背中を眺めながら、大きく深呼吸をした。
「……ごめんね」

大仕事を終え、校舎を出たその足取りは重かった。
つい、ため息がもれる。
わかっていて人を傷つけるのは、つらい。
だけど、ああしてあげるのが優しさだと、僕は信じている。

その時、後ろから肩をぽんっと叩かれた。
振り返ると、不敵な笑みを浮かべている木戸拓矢がいた。
「よお。色男」
「え?」
「さっき、告白されてたろ。渡り廊下で」
拓矢は、にやりとして僕を見た。
「見てたの?」
「見えたの」
「あ、そう」
「お前、あの子で今年何人目?」
「……3人目」
呟くように答えると、拓矢は「はぁあ」と間の抜けた声を出した。
「罪な男だな。あんなかわいい子振るなんてさ」
「放っといてよ。振る方もそれはそれでしんどいんだぞ。なんか、悪いことしてるみたいでさ……」
さっきのつらそうな女子の顔が頭をよぎった。
「くそ。人の気も知らねぇで、よくもまあそんなことが言えたもんだわ。そういうのをな、贅沢な悩みっていうんだよ」
拓矢は、僕の言葉をまったく理解しようとはしなかった。
「この調子だと、来週も告白されるんじゃねぇの?だって、遊園地だぜ?」
拓矢はにやりと笑って僕を見た。
そう。
来週は遠足。
バスに乗って遊園地に行くことになっている。
「非日常にハプニングは、つきものだろう」
そう言って勝手にはしゃいでいる拓矢に、少しいら立った。
なんだよ。人の気も知らないで。
「……茶化すなよ」
そう言った僕の声色が、微妙に変わっていたのに拓矢も気づいたのか、僕の肩にぽんっと手を置き。
「だけどさ」
「ん?」
「お前、振ってばかりいるけどさ。お前の好きな奴って、いったい誰なわけ?」
その言葉に、心臓をぎゅっと掴まれたような心地がした。
「それは……」
まさか、本当のことなんて言えるはずがない。
今、僕の隣を歩いている、クラスメイトの君だ、なんて。
「……教えない」
「なんだよ。つまんねぇな」
拓矢は肘で僕の腕を小突いた。