それから数日、いつも通りに会いながら、
心の中だけで、ゆっくりと決めていった。
「玲司くん」
いつもの帰り道、少し立ち止まって呼んだ。
「うん?」
「私たち、ちょっと距離、置いた方がいいかもしれない」
彼の顔から、表情が消えた。
「……え?」
聞いた事もない低い声に、目を合わせられなくなる。
一瞬だけ、彼の表情が固まった。
責められるかもしれない、と身構えたけれど、玲司くんは何も言わなかった。
ただ、いつもより長い沈黙が流れただけだった。
「……そう、なんだ」
ようやく落ちてきた声は、さっきの硬さが嘘みたいに、いつもの優しい響きに戻っていた。
無理に、そうしているのが分かった。
「理由、聞いてもいい?」
「ごめん、今はまだ、うまく言葉にできなくて」
嘘だった。でも、本当のことを言えば、玲司くんはきっと私のために、もっと無理をする。
それだけは、させたくなかった。
「優花」
彼が名前を呼んだ。珍しく、呼び捨てで。
「俺のせいなら、ちゃんと話してほしい」
「玲司くんのせいじゃないよ。本当に」
嘘は、これで二度目だった。
彼は何かを言いかけて、でも飲み込んだ。
私の意思を、無理やりこじ開けようとはしなかった。
それが彼の優しさだと知っていたから、余計に、胸が痛かった。
「……分かった。でも、気持ちが変わったら、いつでも連絡して」
「うん」
三度目の嘘。連絡するつもりなんて、なかった。
その日を境に、メッセージにも、少しずつ返事を減らしていった。バイトのシフトも変え、会う場所には、行かないようにした。
数週間後、玲司くんからの連絡は、ぴたりと止まった。
――ちゃんと、諦めてくれたんだ。
安堵と、それ以上の何かで、目の奥が熱くなった。これでよかったのだと、何度も自分に言い聞かせた。
彼にはきっと、ふさわしい場所がある。
彼の隣に私の居場所なんて最初からなかったのだ。
大丈夫。
平気だ。
彼との思い出たちが、支えてくれる。
全然……平気だ。

