付き合い始めてから、季節は静かに巡っていった。
始発待ちの帰り道も、
図書館の隣の席も、
閉店後の片付けも、
いつしか"日常"になっていた。誰かにこんなふうに当たり前を積み重ねられる日が来るなんて、思ってもみなかった。
けれど、二度目の冬を迎える頃から、玲司くんの様子に、小さな陰りが増えていった。
電話に出るとき、必ず少し離れた場所へ行くようになった。戻ってきたときの表情が、以前より硬いことに気づいても、聞かなかった。
「大丈夫?」と聞けば、必ず「大丈夫」と返ってくる。その言葉の軽さが、逆に何かを隠していることを教えていた。
図書館で二人で課題を広げていたある日、
彼のスマホが何度も震えた。無視を続けていた玲司くんが、最後には諦めたように席を立ち、廊下の奥へ消えていった。戻ってこない時間が、いつもより長かった。
心配になって様子を見に行こうとしたとき、ちょうど戻ってくる彼と鉢合わせた。電話はまだ切れていなかったのか、最後の一言が漏れ聞こえた。
「――彼女は関係ないだろ。俺が決めることだ」
低く、抑えた声だった。私に気づくと、玲司くんは慌てたようにスマホをしまい、いつもの表情を取り繕った。
「ごめんなさい、待たせました」
「……大丈夫?」
「うん、平気。ちょっと家のことで」
それ以上は、聞けなかった。彼が話したくないなら、それでいい。詮索されることの息苦しさを、私は誰よりも知っていたから。
――俺が決めることだ。
あの一言が、頭から離れなかった。
決める、ということは、選ばなくてはいけない何かがあるということだ。そして玲司くんは、私を、守ろうとしてくれた、そう感じた。
でも、
それが一番こたえた。
私という存在は、彼の周りにとって"面倒ごと"なのだ。
――そう……だよね。
胸の中で、静かにその言葉が落ちた。
驚きも、怒りもなかった。
ただ、あまりにも聞き慣れた感覚だった。
誰かに迷惑をかけている。
誰かの負担になっている。
その予感がした瞬間、体が勝手に動く。
昔からそうだった。
両親に「もう自分でやりなさい」と言われるより先に、
自分から手を引っ込める癖が、
骨の髄まで染みついていた。
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