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それから、彼の来店はほぼ毎日になった。
閉店作業を手伝ってくれることも増えた。最初は遠慮していたけれど、「暇なんで」と涼しい顔で椅子を運んだり、看板を下げたりする彼を、いつからか当たり前のように隣に置くようになっていた。
彼が同じ大学の後輩だと知ったのは、そんなある日のことだった。生協で偶然見かけて声をかけると、彼のほうが先に固まっていた。
「……優花さん、うちの大学だったんですか」
「玲司さんこそ、なんで」
「経済学部の二年です。学部が違うから、会わなかったんですね」
一つ下。同じキャンパスに、こんなに近い距離でずっといたのに、知らなかった。
それが妙におかしくて、二人で少し笑った。
その日を境に、呼び方も少しずつ変わっていった。「玲司さん」から「玲司くん」へ。後輩だと分かった途端、不思議とその呼び方のほうがしっくりきた。彼のほうも、それを嫌がる様子はなかった。
「玲司くんって、大学でも見かけないよね」
「授業以外は、あんまりキャンパスにいないので」
「忙しいの?」
「まあ、少し」
はぐらかされている気はしたけれど、それ以上は聞かなかった。彼が話したくないなら、
それでいい。詮索されることの息苦しさを、私は誰よりも知っていたから。
代わりに、彼のほうが私のことをよく聞いてきた。
「実家、あんまり帰らないんですね」
「……忙しいので」
「本当に、それだけですか」
見透かされている、といつも思った。
適当な理由で誤魔化しても、玲司くんは絶対にそこで納得しない。かといって無理に聞き出そうとするわけでもなく、ただ静かに「言いたくなったら、でいいので」と待っている。
その"待ってくれる"感じに、少しずつ、少しずつ、心の鍵が緩んでいくのが自分でも分かった。
大学の中でも、彼の姿を見かけるようになった。
図書館で課題を広げていると、
当たり前のように向かいの席に座ってくる。
学食で一人で食べているところに、
トレーを持った彼がふらりと現れる。
「先輩、また一人で食べてたでしょう」
「別に、いつものことなので」
「よくないです。一人でいるの、慣れすぎてる」
そう言われるたび、見透かされている気がして、
少し居心地が悪かった。でも、悪い気はしなかった。
初めて実家の話をしたのは、深夜のバイト終わり、
二人で始発を待っていたときだった。
少し湿気った白んだ空気に明るくなる前の静かさ。
「家族の中に、自分の居場所がない気がしてて」
言った瞬間、後悔した。
誰にも言ったことのない言葉だった。
「そっか」
玲司くんはただ、それだけ言った。
慰めも、同情も、アドバイスもなかった。
ただ隣に座って、私が話す分だけ、
静かに聞いていてくれた。
「ごめん、こんな話」
「謝る事じゃないです。ただ……優花さんがずっと一人でそれ抱えてたのかと思うと、ちょっと悔しいです」
「悔しい?」
「俺が、もっと早く優花さんに会いたかったなって意味です」
その言葉に、目の奥が熱くなった。
人前で泣く事が無いからすごく恥ずかしくて
なんだか情けなくて、覚えてる。
その日から、玲司くんの存在は、私の中で"後輩"や"優しい常連さん"ではなくなっていた。
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それから、彼の来店はほぼ毎日になった。
閉店作業を手伝ってくれることも増えた。最初は遠慮していたけれど、「暇なんで」と涼しい顔で椅子を運んだり、看板を下げたりする彼を、いつからか当たり前のように隣に置くようになっていた。
彼が同じ大学の後輩だと知ったのは、そんなある日のことだった。生協で偶然見かけて声をかけると、彼のほうが先に固まっていた。
「……優花さん、うちの大学だったんですか」
「玲司さんこそ、なんで」
「経済学部の二年です。学部が違うから、会わなかったんですね」
一つ下。同じキャンパスに、こんなに近い距離でずっといたのに、知らなかった。
それが妙におかしくて、二人で少し笑った。
その日を境に、呼び方も少しずつ変わっていった。「玲司さん」から「玲司くん」へ。後輩だと分かった途端、不思議とその呼び方のほうがしっくりきた。彼のほうも、それを嫌がる様子はなかった。
「玲司くんって、大学でも見かけないよね」
「授業以外は、あんまりキャンパスにいないので」
「忙しいの?」
「まあ、少し」
はぐらかされている気はしたけれど、それ以上は聞かなかった。彼が話したくないなら、
それでいい。詮索されることの息苦しさを、私は誰よりも知っていたから。
代わりに、彼のほうが私のことをよく聞いてきた。
「実家、あんまり帰らないんですね」
「……忙しいので」
「本当に、それだけですか」
見透かされている、といつも思った。
適当な理由で誤魔化しても、玲司くんは絶対にそこで納得しない。かといって無理に聞き出そうとするわけでもなく、ただ静かに「言いたくなったら、でいいので」と待っている。
その"待ってくれる"感じに、少しずつ、少しずつ、心の鍵が緩んでいくのが自分でも分かった。
大学の中でも、彼の姿を見かけるようになった。
図書館で課題を広げていると、
当たり前のように向かいの席に座ってくる。
学食で一人で食べているところに、
トレーを持った彼がふらりと現れる。
「先輩、また一人で食べてたでしょう」
「別に、いつものことなので」
「よくないです。一人でいるの、慣れすぎてる」
そう言われるたび、見透かされている気がして、
少し居心地が悪かった。でも、悪い気はしなかった。
初めて実家の話をしたのは、深夜のバイト終わり、
二人で始発を待っていたときだった。
少し湿気った白んだ空気に明るくなる前の静かさ。
「家族の中に、自分の居場所がない気がしてて」
言った瞬間、後悔した。
誰にも言ったことのない言葉だった。
「そっか」
玲司くんはただ、それだけ言った。
慰めも、同情も、アドバイスもなかった。
ただ隣に座って、私が話す分だけ、
静かに聞いていてくれた。
「ごめん、こんな話」
「謝る事じゃないです。ただ……優花さんがずっと一人でそれ抱えてたのかと思うと、ちょっと悔しいです」
「悔しい?」
「俺が、もっと早く優花さんに会いたかったなって意味です」
その言葉に、目の奥が熱くなった。
人前で泣く事が無いからすごく恥ずかしくて
なんだか情けなくて、覚えてる。
その日から、玲司くんの存在は、私の中で"後輩"や"優しい常連さん"ではなくなっていた。
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