気分転換の花火大会の後は、ほとんど学校の図書室で過ごした。
体育館の前を通ると、ボールが弾む音や掛け声が聞こえた。
ついこの前までこの中にいたのにな。
部外者になった俺は、毎日体育館を素通りして図書室へ向かった。
まるで判を押したような夏休みを過ごし、受験生の夏は終わりを告げた。
2学期に入るとすぐに文化祭があった。
俺たちのクラスはお菓子屋をすることになった。
スーパーで買ってきた個包装のお菓子の詰め合わせを作って、1個100円で売る。
「大木くん、ごめん手伝ってー。私たちじゃ背が足りなーい」
「どうすんの?」
「この布、上の方を画鋲で留めてー」
「OK」
椅子の上に立ち、手を伸ばす。
指示通りに止めていくと、
「さすが!助かるー」
と女子が口々に言った。
みんなで文化祭の準備をするのは楽しかった。
段ボールを切ったり、お菓子を詰めたり。
暗くなるまでみんなと教室に残っていた。
それだけのことが、なんだか特別だった。
当日の役割分担で、俺は呼び込み係にされた。
「大木くん目当てで来てくれるから!」
と女子たちが強引に決めてしまった。
なぜか女子にウサギ耳のカチューシャを付けられた。
「これ、いる?」
慣れないカチューシャに戸惑う。
「かっこかわいいは最強」
「売り上げ貢献だと思って」
女子が口々に言う。
遊ばれているとしか思えないのだが。
まあ、いっか。
今日は文化祭だし。
ウサ耳を付けて廊下に出ると、やっぱりざわついた。
「ちょ、大木くん、それは反則」
「なんでそのウサ耳が似合っちゃうの」
女子たちがざわつく一方で、
「大木ー!バニーデビューかぁ」
男子どもがからかってくる。
「本日デビューなんで、お手柔らかに」
わざとしなやかに言ってやった。
呼び込みを始めると、すぐに人が集まった。
それはお菓子目当てではなく俺目当てだった。
「ほらほら、あの人」
「かっこいい」
「ウサ耳かわいい」
嫌でも視線を感じる。
ああ、まただ。
すると、
「すみません」
女子が声をかけてきた。
上履きを見ると1年生だった。
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
顔を真っ赤にしている。
こんな耳をつけてる俺の方がよっぽど恥ずかしいぞ?
「いいよ」
彼女の隣に並ぶと、友達がシャッターを切った。
「ありがとうございました」
頭を下げて去っていく。
「やった!」
「めっちゃかっこよかったね!」
と話しているのが聞こえた。
ひとり応じたのがいけなかったか、ちょっとした写真の列ができてしまった。
すると、教室の中の女子が、
「大木くん、中入って、中」
「え?なに?」
「教室入って」
言われるがまま、教室に入る。
すると、その女子が、
「バニーくんとの撮影希望の人はこちらですよー!お菓子買うと特典つきまーす!」
とアナウンスした。
……え?
俺、特典?
あっという間に女子の列ができた。
お菓子の売り上げは好調、だけどさ。
……俺って、なんなの?
俺の隣に並んでカメラに収まる彼女たちは、みんな嬉しそうな顔をする。
でも、それが目の前の出来事とは思えなかった。
ちょっと離れて眺めてる俺がいた。
これ、俺じゃなくてもいいんじゃない?
等身大パネルでも置いとけば?
その時、教室の入口に早紀がいるのに気がついた。
ごめん、これじゃいっしょに回れないね。
早紀に手を合わせて謝ろうとした時、早紀は困ったような、でも、まんざらでもないような表情をした。
え。
どうして。
俺は、売り上げのために笑顔を作り続けた。
文化祭が終わったあと、ようやく早紀と話せた。
「歩、すごい人気だったね」
「いっしょに回れなくてごめん」
「ううん。大丈夫だよ」
「さすがにちょっと疲れた」
「お疲れさま。そりゃ疲れるよね。列になってたもん」
「うん」
「私の後輩も並んでたらしいよ」
早紀はどことなく嬉しそうだ。
「そうだったんだ」
「後輩、歩のこと、めっちゃかっこいいって言ってた」
「うん」
「なんか、幸せ」
「なんで?」
「こんなかっこいい彼氏がいるんだもん」
その言葉に、俺の心は軋んだ。
早紀は何も悪くない。
わかってる。
わかってるけど。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
体育館の前を通ると、ボールが弾む音や掛け声が聞こえた。
ついこの前までこの中にいたのにな。
部外者になった俺は、毎日体育館を素通りして図書室へ向かった。
まるで判を押したような夏休みを過ごし、受験生の夏は終わりを告げた。
2学期に入るとすぐに文化祭があった。
俺たちのクラスはお菓子屋をすることになった。
スーパーで買ってきた個包装のお菓子の詰め合わせを作って、1個100円で売る。
「大木くん、ごめん手伝ってー。私たちじゃ背が足りなーい」
「どうすんの?」
「この布、上の方を画鋲で留めてー」
「OK」
椅子の上に立ち、手を伸ばす。
指示通りに止めていくと、
「さすが!助かるー」
と女子が口々に言った。
みんなで文化祭の準備をするのは楽しかった。
段ボールを切ったり、お菓子を詰めたり。
暗くなるまでみんなと教室に残っていた。
それだけのことが、なんだか特別だった。
当日の役割分担で、俺は呼び込み係にされた。
「大木くん目当てで来てくれるから!」
と女子たちが強引に決めてしまった。
なぜか女子にウサギ耳のカチューシャを付けられた。
「これ、いる?」
慣れないカチューシャに戸惑う。
「かっこかわいいは最強」
「売り上げ貢献だと思って」
女子が口々に言う。
遊ばれているとしか思えないのだが。
まあ、いっか。
今日は文化祭だし。
ウサ耳を付けて廊下に出ると、やっぱりざわついた。
「ちょ、大木くん、それは反則」
「なんでそのウサ耳が似合っちゃうの」
女子たちがざわつく一方で、
「大木ー!バニーデビューかぁ」
男子どもがからかってくる。
「本日デビューなんで、お手柔らかに」
わざとしなやかに言ってやった。
呼び込みを始めると、すぐに人が集まった。
それはお菓子目当てではなく俺目当てだった。
「ほらほら、あの人」
「かっこいい」
「ウサ耳かわいい」
嫌でも視線を感じる。
ああ、まただ。
すると、
「すみません」
女子が声をかけてきた。
上履きを見ると1年生だった。
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
顔を真っ赤にしている。
こんな耳をつけてる俺の方がよっぽど恥ずかしいぞ?
「いいよ」
彼女の隣に並ぶと、友達がシャッターを切った。
「ありがとうございました」
頭を下げて去っていく。
「やった!」
「めっちゃかっこよかったね!」
と話しているのが聞こえた。
ひとり応じたのがいけなかったか、ちょっとした写真の列ができてしまった。
すると、教室の中の女子が、
「大木くん、中入って、中」
「え?なに?」
「教室入って」
言われるがまま、教室に入る。
すると、その女子が、
「バニーくんとの撮影希望の人はこちらですよー!お菓子買うと特典つきまーす!」
とアナウンスした。
……え?
俺、特典?
あっという間に女子の列ができた。
お菓子の売り上げは好調、だけどさ。
……俺って、なんなの?
俺の隣に並んでカメラに収まる彼女たちは、みんな嬉しそうな顔をする。
でも、それが目の前の出来事とは思えなかった。
ちょっと離れて眺めてる俺がいた。
これ、俺じゃなくてもいいんじゃない?
等身大パネルでも置いとけば?
その時、教室の入口に早紀がいるのに気がついた。
ごめん、これじゃいっしょに回れないね。
早紀に手を合わせて謝ろうとした時、早紀は困ったような、でも、まんざらでもないような表情をした。
え。
どうして。
俺は、売り上げのために笑顔を作り続けた。
文化祭が終わったあと、ようやく早紀と話せた。
「歩、すごい人気だったね」
「いっしょに回れなくてごめん」
「ううん。大丈夫だよ」
「さすがにちょっと疲れた」
「お疲れさま。そりゃ疲れるよね。列になってたもん」
「うん」
「私の後輩も並んでたらしいよ」
早紀はどことなく嬉しそうだ。
「そうだったんだ」
「後輩、歩のこと、めっちゃかっこいいって言ってた」
「うん」
「なんか、幸せ」
「なんで?」
「こんなかっこいい彼氏がいるんだもん」
その言葉に、俺の心は軋んだ。
早紀は何も悪くない。
わかってる。
わかってるけど。
どうしてこんなに苦しいんだろう。



