きみはフレームの外で笑う



目を覚ますとベットの上。

アルコールは残っていないものの、頭が重い。喉も渇いている。

『飲みすぎた……』


あの後もう1件行こうと言ったのは私で……
途中愛子に置いて帰られたんだっけ。

別に酔っ払ってた訳では無いけど、仕事の前日にする行動では無かったな。

メイクは最低限、髪型はいつも通り済ませて水分を沢山取りながら外にでる。

朝ご飯は時間がないのでもちろん抜き。


車内では音楽もかけず、いつもより慎重に職場へ向かった。
あぁ、これ結構しんどいかも……

水をもう1口含んだあと駅前の信号で止まり、赤信号の数字をぼんやり眺める。

横をチラリと見ると歩道に見覚えのある男性を見つけた。


『澤田さんだ。』


白いコックコートではなく、黒いミドル丈のシャツに細身の白パンツ。前髪も下ろしていて昨日とは雰囲気が違うけれど、見間違えるはずがない。

出勤中だろうか。
でも彼の隣には女性が居る。

白い大きめのシャツにジーンズ生地のワイドパンツ。
ふんわりとしたボブを揺らしながら、澤田さんを可愛らしい笑顔で見上げる。

きっと干場さんだろう。

干場さんが何かを言うと、澤田さんは少ししゃがんで、干場さんに高さを合わせて話を聞いている。

ただ表情が見えない。


ふ〜ん。職場の可愛らしい女性にはあんな感じで対応するのね。
私には、あれだけ感じが悪かったくせに。


それにしても、干場さん随分嬉しそう。

澤田さんがどんな顔で話を聞いているのか、なぜか気になった。

もう少し見ようとしたところで信号が青に変わる。



『別に私には関係ないけど……』


後ろの車に迷惑をかけないよう、私はすぐに車を発進させた。

同じ店で働いているなら、一緒に出勤することくらいある。







『断られてしまいました。』


午前中のうちに、私は蒼井さんへ昨日の取材について報告した。

「顔出しは一切しない、か」

『はい。顔出しをしないといけないならお断りしますと……』

「そっか……」


蒼井さんは資料を一通り見た後、少しため息をついてこちらをじっと見つめた。
やばいこれは怒られるやつだ。

そう思い私はぎゅっと両目を瞑った。


「分かった。何としてでも取材してきてと言いたいところだけど、



倉嶋ちゃんが別の人にしたいなら、違う企画に変えてもいいよ」

『え?』


想像してた言葉と違う返答で、思わず声に出てしまった。
確実にガツンと来るなと思っていたから。


「先方が嫌がってる事を無理やり押す訳にはね。
相手の気持ちが大切だから。」


蒼井さんは柔らかい笑顔でそう言ってくれて、正直拍子抜けした。

でも私は、引き下がるつもりはなかった。


『いえ。私やります!』

「え?でも顔出しは……」

『できるだけ顔を出さない方向で、澤田さんの魅力が伝わる広報を作りたいんです。
本人にもまた来ると言ってしまいましたし……』


最初は強気だったが、だんだん語尾が小さくなっていく。

でも蒼井さんはあははっと声を出して笑ってくれた。


「じゃあ任せる。いい広報をお願いね?」

『はい!』

「でも無理しちゃだめよ?」


任せてくれた蒼井さんの為にも、素敵なものを作らなきゃね。




昼時。

私はランチタイムの時間に、あの店のケーキを食べて見ようと駅前まで向かった。

本当は近くの中華料理屋でチャーハン定食を食べようと思っていたが、流石に重いのでケーキにしようと思い並木道を歩く。


「桃のレアチーズタルト絶品だよ!」


愛子がそう言っていたので、1つはそれにしよう。もう1つはチョコレートケーキかな。

ここでカロリーは気にしてはいけない。


私はふん!っと気合いを入れてパティスリースリジエのドアを開けた。