きみはフレームの外で笑う




「倉嶋ちゃん甘いもの好きでしょ?」



そう笑顔がチャームポイントの課長に言われたのが全ての始まりだったのかもしれない。



私の名前は倉嶋美雪。先日26歳の誕生日を迎えたばかりだ。

身長は167センチと普通の女性の平均よりは少し上 。
勿論私と同じくらいの男性もかなり多い。

胸下まである栗色の髪をひとつに纏めているので、少し固いイメージを持たれることも多いけど、

どちらかと言うと人とコミュニケーションを取るのは好きだし、話し方は柔らかい方だと思うから本当に最初だけ。


『次の特集ですか?』


笑顔がチャームポイントの課長、蒼井さんの綺麗なデスクには沢山文字の書かれた資料が2、3部積まれている。


「ええ。街で働く若い人を紹介する企画。今回はパティシエ。」

『このPatisserie cerisier(パティスリースリジエ)って駅前のケーキ屋さんの?』


蒼井さんの手から渡された資料をぱらりとめくると、そこには駅前にある綺麗な外観の建物がプリントされていた。


「ここ、行ってみたいって言ってたでしょ?」

『はい。同期の中でも見た目が綺麗なだけではなく、味も繊細で美味しいと話題になっていたので』

「今の所、スリジエさんに許可は貰ってる。ただね……」


蒼井さんは少し眉を下げて口を噤んだ。
困った顔をしても本当に美人だな〜。羨ましい。


『今回取材をしたい担当者が少し気難しい人みたいでね。』

「担当者……」

『うん。名前は澤田聖都。

年は倉嶋ちゃんの2つ上かな。前は都内の大きなお店にいたんだって。』


そういいながら見せて貰った過去の記事には、驚くほど端正な顔をした男性が微笑んでいた。

切れ長な瞳に綺麗な鼻筋、形の良い眉毛にキュッと上がった口角。
暗めの茶髪は緩く巻かれ、真ん中で分けられている。

そして手足はスラリと長いのに腕は筋が綺麗で……って

見すぎた。


だってあまりにも綺麗な人。こんな整った顔立ちの人は実際に出会ったことがない。


「倉嶋ちゃん好みのタイプ?」


そういいながら蒼井さんはこの記事あげるよ〜ってニヤニヤしている。
想像よりも写真に見入ってしまってたみたい。


『え!?違いますよ!ただ綺麗だな〜って……』

「整ってるよね。
見た目良し!腕良し!特集するにはバッチリだと思うんだよね。」


そう言いながら蒼井さんは私の肩をポンッと叩き、

「交渉宜しくね?」

と、ウインクした。


『いやあの……でも気難しいんですよね?この人。』

「まぁそうらしいけど……行ってみないと分からないし、倉嶋ちゃんなら行ける行ける!」

行ける行ける!ってそんな適当な……

他にもやりたい人居ると思うんだけど……向かいの席の甘党おじさん社員がチラチラ見てくるし……


『でも〜……』

「倉嶋ちゃん、甘いもの好きでしょ?交渉できたら毎回ここのケーキ食べられるかもよ?」

『仕事とプライベートは別です!』


そう答えながら企画書に載った様々なケーキを見てみる。

つやりとした苺をふんだんに使った苺タルトに、いかにも濃厚そうで蕩けそうなチョコレートケーキ。

たしかにこれが食べられるかもなら……


『やらせてください。』

「倉嶋ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。」


と、結局欲望に負けて引き受けてしまった。

だってこんな美味しそうなケーキがタダで食べられる可能性があると………



——このときの私は、ずいぶん気楽に考えていた。