異世界北海道で美味しいごはん〜夫に捨てられたけれど農業男子の愛が止まりません〜

異世界の食文化は質素だ。

 そして北海道の味付けは、とにかく濃い。

 煮崩れしたジャガイモに、大豆が主食。

 副菜は肉や干し魚のグリル。

 チーズはそのまま齧るだけ。

 盛り付けは木皿にただ乗せただけで、彩りも繊細さのかけらもない。

 ギルの宿屋で初めに出されたスープも、ドロドロの焦茶色で、とにかく味がくどかったのを覚えている。

 大きな岩塩を、そのまま鍋へ放り込む。

 野菜は形がなくなるまで煮込み、肉は焼くだけ。

 素材の旨味を引き出すというより、塩味で食べる文化なのだろう。

 もちろん、それが悪いわけではない。

 厳しい冬を越えるためには、保存が利いて塩分の高い食事は理にかなっている。

 けれど、私には少し寂しく感じた。

 春に芽吹く山菜の香り。

 夏野菜のみずみずしさ。

 秋のきのこの旨味。

 冬に湯気を立てる味噌汁。

 北海道には四季があり、その季節ごとの味があった。

 熊ちゃんと営んでいたラーメンヴェダー亭でも、季節によって少しずつ具材を変えていた。

 アスパラガスが旬ならアスパラガスを。

 とうもろこしが甘くなれば、味噌ラーメンに添えた。

 だから私は、この世界でも季節を料理に閉じ込めたいと思った。

 市場へ行くたびに、旬の野菜を眺める。

 今日はどんな料理にしよう。

 そんなことを考える時間が好きだった。

 トマトが赤くなれば、トマトソースを作る。

 バジルが育てば、香りを生かした料理を考える。

 きのこが採れれば、コンソメスープへ入れる。

 食材が「今日は私を使って」と話しかけてくるような気がした。

 もっとも。

「キャー!」

 包丁を入れられそうになったナスは今日も元気よく叫び。

「シクシクシク……」

 手に持ったキャベツは泣き始める。

「ごめんね、いただきます」

 謝りながら料理をするのも、この世界ならではだ。

 ヴェダーたちはその様子を見て、葉っぱを揺らしながら笑っている。

「ヴェダー!」

 シマエナガも「ジュリッ」と鳴いて、窓辺から見守っていた。

 最近では町の人たちにも少しずつ変化が現れていた。

 肉屋のご主人は、肉に振る胡椒の量を加減するようになった。

 素材の味が活きる料理。

 市場のおばさんは、トマトを輪切りにしてバジルを添えチーズと一緒に皿に盛り付けるようになった。

 彩り豊かな食卓。

 ギルから届いた手紙には、

『宿でも野菜を炒めてからスープに入れるようにしたら、お客が増えた』

 と、嬉しそうな文字が並んでいた。

「良かった」

 私は思わず笑顔になる。

 料理は、お腹を満たすだけじゃない。

 誰かを笑顔にするもの。

 驚かせるもの。

 季節を感じてもらうもの。

 そして、人と人を繋ぐものだ。

 ヴェダー亭へ集まるお客さんは、もうラーメンだけを目当てに来るわけではない。

「今日はおすすめは何だい?」

「畑で採れたトマトですよ」

「じゃあ、それを一つ」

 そんな会話が、毎日のように交わされる。

 私は厨房に立ち、旬の野菜を手に取る。

 窓の外ではトマトたちが今日も陽気に歌っている。

「♪さわっこの畑で獲れたトマト♪」

「......いただきます」

 私は包丁を握り、優しく微笑んだ。

「それじゃあ今日も、美味しい料理を作ろうか」

「ヴェダー!」

 八匹の元気な返事が店いっぱいに響き、ヴェダー亭の一日が今日も賑やかに始まるのだった。