異世界北海道で美味しいごはん〜夫に捨てられたけれど農業男子の愛が止まりません〜

北海道といえば「いももち」。

 ホクホクのジャガイモに片栗粉を練り込む。

 片栗粉がないので、今回はコーンスターチで代用。

 異世界には「いももち」がない。

 この柔らかく、それでいてもっちりとした歯応えのある存在は、きっとこの世界の人たちも驚くはずだ。

「よし、作ってみよう」

 私は朝市で買ってきた大ぶりのジャガイモを籠から取り出した。

 ころころと転がるジャガイモは、相変わらず無口だ。

「今日は美味しくなるからね……いただきます」

 鍋にたっぷりの水を張り、皮付きのままジャガイモを入れる。

 窯へ薪をくべると、パチパチと小気味よい音を立てて火が踊り始めた。

「ヴェダー!」

 八匹のヴェダーは椅子を並べ、鍋を囲んで座っている。

 まるで劇場で芝居が始まるのを待つ子どもたちだ。

 シマエナガも窓辺から首を伸ばして鍋を覗いていた。

「ジュリ」

 やがて湯気が立ち始める。

 竹串を刺すと、すっと中心まで通った。

「茹で上がった」

 熱々のジャガイモを布巾で包み、皮を剥く。

 ほろり。

 黄金色の実が顔を出した。

「熱っ、熱っ」

 指先を冷ましながら木のボウルへ入れ、木べらで潰していく。

 ほくほく。

 湯気と一緒に甘い香りが立ち上った。

「いい匂い」

 そこへ乾燥させて作ったコーンスターチを少しずつ加える。

「一気に入れちゃ駄目」

 木べらで混ぜ、手でこねる。

 まとまり始めるまで、少しずつ。

 少しずつ。

「これくらいかな」

 耳たぶほどの柔らかさになった生地を、小判型に丸めていく。

 ヴェダーたちも真似を始めた。

「ヴェダー!」

 一匹は真ん丸。

 一匹は細長い。

 一匹はなぜか星形。

「あはは」

「それじゃ焼きにくいよ」

「ヴェダー……」

 しょんぼりした葉っぱが垂れる。

「大丈夫」

 私はその生地を優しく丸め直した。

「こうすると、両面きれいに焼けるよ」

「ヴェダー!」

 今度は嬉しそうに頷いた。

 フライパンへラードを少し落とす。

 ジュワッ。

 香ばしい音が響く。

 そこへ、いももちをそっと並べる。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 焼き色が付くまで待つ。

「まだ触っちゃ駄目」

 ヴェダーたちは両手を膝に置いて我慢している。

 しばらくすると。

 こんがりと狐色になった。

「よし」

 フライ返しで裏返す。

 パタン。

 美しい焼き色に思わず頬が緩む。

 両面が焼き上がったところで、醤油と砂糖を合わせた甘辛いタレを回し入れる。

 ジュワァァァッ。

 香ばしい煙が立ち上る。

 甘い香りと醤油の香りが混ざり合い、店中に広がった。

「ヴェダー!」

 八匹が一斉に飛び跳ねる。

 シマエナガも「ジュリッ!」と羽をばたつかせた。

「はい、お待たせ」

 木皿へ盛り付ける。

 照り照りと艶をまとったいももち。

 最後に刻み海苔を散らそうと思ったが、この世界にはまだ海苔がない。

「今度、海辺へ行ったら探してみよう」

 そんなことを考えながら席へ着く。

「いただきます」

 フォークで半分に切る。

 もちっ。

 中から湯気が立ち上る。

 一口。

「ん~!」

 思わず目を閉じた。

 外は香ばしく。

 中はふわふわでもちもち。

 ジャガイモの甘さが口いっぱいに広がる。

 甘辛いタレがあとを追いかけ、幸せな気持ちになる。

「これ、美味しい!」

「ヴェダー!」

 待ちきれなかったヴェダーたちも、一斉にかぶりついた。

「ヴェダー!」

「ヴェダー!」

 葉っぱをぶんぶん揺らしながら夢中で頬張っている。

 茶色いヴェダーは、美味しさのあまり床をころころ転がり始めた。

「あはは!」

 その姿を見て、私も笑ってしまう。

 シマエナガは器用に嘴で小さくちぎり、ゆっくり味わっている。

「ジュリ」

 どうやら気に入ってくれたようだ。

「これなら」

 私は空になった皿を見つめる。

「ヴェダー亭の新しい名物になるかもしれない」

 豚骨ラーメン。

 とろけるチーズのトマト焼き。

 そして、北海道の懐かしい味、いももち。

 少しずつ増えていく献立帳を開き、私は新しく一行書き加えた。

 『いももち 甘辛醤油だれ』

 その文字を見つめながら、次はどんな北海道の味をこの異世界へ届けようかと、胸を弾ませるのだった。