異世界北海道で美味しいごはん〜夫に捨てられたけれど農業男子の愛が止まりません〜

朝靄の中、窯の火種になる白樺の枝を拾いにゆく。

 朝露をまとった草が長靴を濡らし、ひんやりとした空気が頬を撫でた。

 森の向こうから、小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。

 今日もいい天気になりそうだ。

 七匹のヴェダーは葉っぱを揺らしながら、小枝をせっせと運び荷車に乗せている。

「ヴェダー!」

「ありがとう」

 私は枝を束ねながら笑う。

 細い枝は火付きがいい。

 太い薪へ火を移すためには欠かせない。

 落ちている枝だけを拾う。

 森の木は傷付けない。

 テオが教えてくれたことだ。

 森はみんなで使うものだから、大切にしないといけない。

「ヴェダー!」

 一匹が両手いっぱいに枝を抱えて歩いてくる。

 ところが欲張り過ぎたのか、途中で枝をばらばらと落としてしまった。

「あらあら」

 他のヴェダーたちが慌てて拾い集める。

「ヴェダー!」

「ヴェダー!」

 みんなで協力して荷車へ積み直す姿に、思わず頬が緩んだ。

「仲良しだね」

「ヴェダー!」

 誇らしそうに胸を張る。

 シマエナガは白樺の枝をぴょんぴょんと渡り歩き、小さな虫を見つけては啄んでいた。

「美味しい?」

「ジュリッ」

 嬉しそうに鳴く。

 どうやら今朝の朝ご飯は当たりらしい。

 朝日に照らされた白い羽が、ふわりと輝いて見えた。

 荷車がいっぱいになる頃には、朝靄も少しずつ薄くなっていた。

「よし、帰ろうか」

「ヴェダー!」

 みんなで店へ戻る。

 森で拾った枝はまだ湿り気を含んでいる。

 薪置き場に積んで乾かす。

「ヴェダー!」

 パラパラと落ちた小枝をヴェダーたちが拾い集める。

「さて、と」

 ヴェダー亭へ着くと、まずは窯へ火を入れる。

 乾いた白樺の小枝を組み、マッチを擦る。

 枯れ草へ火が移る。

 ふわりと白い煙が立ち上がった。

「よかった」

 そっと息を吹きかける。

 小さな炎が枝へ燃え移り、ぱちぱちと心地よい音を立て始めた。

 そこへ少し太い薪を一本。

 また一本。

 炎はゆっくりと大きくなる。

「今日もお願いね」

 窯へ小さく声を掛ける。

 返事をするように、薪がぱちんとはぜた。

 その間に私は寸胴鍋を火へ掛ける。

 昨夜から仕込んでおいた豚骨スープを温め始めると、店の中へ少しずつ甘い香りが広がっていく。

「いい匂い」

 蓋を少し開けて木杓子で混ぜる。

 白いスープがゆっくりと揺れた。

 隣ではヴェダーたちが開店の準備を始めている。

「ヴェダー!」

 一匹はテーブルを拭き。

 一匹は椅子を並べ。

 二匹は箸とフォークを一本ずつ丁寧に揃えていく。

 残りの三匹は窓を磨いていた。

 小さな体で一生懸命背伸びをしている姿が可愛らしい。

「ありがとう」

「ヴェダー!」

 返事だけは今日も元気いっぱいだ。

 私は麺を打つため、小麦粉を大きな鉢へ入れる。

 塩水を回しかけ、卵を落とし両手で混ぜ始める。

 さらさらだった粉が少しずつまとまり、一つの生地になっていく。

 ぎゅっ。

 ぎゅっ。

 体重を掛けながら何度もこねる。

 腕に心地よい疲れが伝わってきた。

「今日もたくさん来てくれるかな」

「ヴェダー!」

 期待するように葉っぱが揺れる。

 生地を寝かせる間にチャーシューを切り分け、刻みねぎを用意する。

 煮卵も半分に切る。

 艶やかな黄身が朝の光を受けて輝いた。

 最後に暖簾を抱えて店の外へ出る。

 空を見上げると、朝靄はすっかり晴れ、青い空が広がっていた。

 私は深呼吸を一つして、暖簾を掛ける。

 風が吹き抜け、新しい暖簾がふわりと揺れた。

「よし」

 店内を振り返る。

 温かな豚骨スープの香り。

 磨き上げたテーブル。

 新しいラーメン丼。

 笑顔で待っているヴェダーたち。

 そして窓辺では、シマエナガが「ジュリ」と小さく鳴いた。

「今日も頑張ろう」

「ヴェダー!」

 元気な返事が店いっぱいに響き、ヴェダー亭の新しい一日が始まった。