異世界北海道で美味しいごはん〜夫に捨てられたけれど農業男子の愛が止まりません〜

「やっぱり丼が欲しいなぁ……」

 卵麺、豚骨スープ、チャーシューが出来上がった。

 あとは……器。

 私は腰に手を当て、食器棚を眺めた。

 木製のボウル。

 陶器の平皿。

 小さなスープ皿。

 どれも普段使いには十分だけれど、ラーメンを盛り付けるには少し浅い。

 熱々のスープをたっぷり注ぐには心もとない。

「これじゃあ、スープがあふれちゃう」

「ヴェ?」

 ヴェダーも一緒になって棚を覗き込む。

 小さな手で木のボウルを持ち上げると、頭へすっぽりとかぶってしまった。

「ヴェダー!」

 得意そうに歩き回る。

「あはは、それは帽子じゃないよ」

 ボウルを外してあげると、ヴェダーは少しだけ残念そうに葉っぱを揺らした。

 私は腕を組む。

「どうしようかな」

 市場にも器屋はあった。

 けれど置いてあるのは平皿や浅鉢ばかり。

 この世界では汁物をたっぷり入れる器を使う文化が、あまりないらしい。

「だったら……」

 一つの考えが頭に浮かぶ。

「作ればいいんだ」

 私はぽんと手を叩いた。

 異世界へ来てから、畑も作った。

 鶏小屋も作った。

 ラーメンだって作れた。

 だったら丼くらい、挑戦してみてもいいじゃない。

「ヴェダー!」

 ヴェダーたちも賛成するように葉っぱを振る。

「まずは粘土かな」

 そういえば以前、川に魚がいないか見に行った時。

 岸辺に灰色の土が露出していた。

 あの時は気にも留めなかったけれど、もしかしたら焼き物に使える粘土かもしれない。

「行ってみよう」

 私は籠を持つ。

 ヴェダーたちも慌てて後を追いかけた。

 店の裏手から森を抜け、小川まで歩く。

 さらさらと水が流れる音が耳に心地いい。

「この辺だったかな」

 岸へしゃがみ込む。

 指で土を掘る。

 少し湿った灰色の土が現れた。

「これかも」

 手に取る。

 水を含んでいて柔らかい。

 ぎゅっと握ると、形が崩れずそのまま残った。

「おっ」

 砂とは違う。

 ねっとりとして粘りがある。

 試しに細長く伸ばしてみる。

 途中で切れない。

「いい感じ」

「ヴェダー!」

 ヴェダーたちも真似をして粘土を丸め始めた。

 一匹は丸い団子。

 一匹は細長い蛇。

 もう一匹は……。

「あれ?」

 頭のてっぺんが尖った何かを作っている。

「チョボ?」

「ヴェダー!」

 どうやらそのつもりらしい。

 思わず吹き出してしまった。

「上手じゃない」

 褒めると、嬉しそうに葉っぱを揺らす。

 籠いっぱいに粘土を集めて店へ戻る。

 まずは石ころや木の根を取り除く。

 手で丁寧にこねる。

 ぎゅっ。

 ぎゅっ。

 空気を抜くように何度も押し返す。

 子供の頃、図工で粘土遊びをしたのを思い出した。

「懐かしいなぁ」

 十分に練り終えると、大きな塊を丸くする。

 両手で包み込み、親指をゆっくり押し込む。

 少しずつ。

 少しずつ広げる。

 底を厚めに残し、縁を立ち上げていく。

「こんな感じかな」

 でも思ったより難しい。

 少し力を入れ過ぎると、縁がぐにゃりと曲がってしまう。

「あっ」

 今度は底に穴が開いた。

「失敗」

 苦笑しながら潰す。

「もう一回」

 粘土は何度でもやり直せる。

 二つ目。

 三つ目。

 四つ目。

 少しずつ形になってきた。

 ヴェダーたちも隣で夢中になっている。

「ヴェダー!」

 一匹は小さなお茶碗。

 もう一匹は壺。

 そして一匹は……。

 顔の付いた器を作っていた。

「それ、使いにくそう」

「ヴェダー!」

 本人は満足そうだ。

 夕方になる頃には、作業台の上へ大小さまざまな器が並んでいた。

 その中に、一つだけ。

 私が思い描いていた形に近い器がある。

 丸く深く、口が少し広がった形。

 ラーメンをたっぷり盛り付けられそうだ。

「これなら」

 私はそっと持ち上げた。

 まだ柔らかく、乾いていない。

 けれど形は悪くない。

「次は焼かないとね」

 問題はそこだった。

 窯はある。

 でもパンを焼く窯と、陶器を焼く窯は同じでいいのだろうか。

 温度は。

 時間は。

 釉薬は。

 わからないことだらけだ。

 それでも胸は不思議とわくわくしていた。

 ラーメンを完成させる最後の一歩。

 私は夕日に照らされた粘土の丼を見つめながら、小さく拳を握った。

「よし。今度は焼き物に挑戦だ」