『付き合ってない、たぶん』上

「――おい、春。起きろ、朝練始まるぞ」

低い声と、肩を揺らす優しい手のひら。

その温もりで、俺は、目を覚ました。

だけど、いつもみたいに、「おはよー、蓮」って、笑顔で抱きつく元気がなかった。

(……全然、眠れなかった)

重い身体を起こすと、視界が少しふらついた。

昨日の夜、蓮が言っていた言葉が、頭の中でずっと、大音量でリピート再生されていたからだ。

『実は、いる。絶対に、叶わない相手だから』

あんなに切なそうな蓮の声、生まれて初めて聞いた。

いつも一緒にいて、何でも話し合ってきたはずなのに。

(なんで、俺にだけ、言ってくれなかったんだろう……)

隠されていた寂しさと、蓮に好きな人がいるというショック。

一晩中、そればかり考えていたら、完全に寝不足になってしまった。