『付き合ってない、たぶん』上

一方その頃、蓮は――。

(……心臓、止まるかと思った)

蓮は、お湯に浸かっていない方の顔を、手のひらで、がっしりと覆い隠していた。

「好きな人」と聞かれた瞬間、頭に浮かんだのは、目の前で、お湯に潜っている春の顔だけだった。

(いるわけねぇだろ、お前以外の奴なんて。……って、言えるわけない。こんなの、完全にただの照れ隠しだ)

本当は、今すぐ「お前が好きだ」と引きずり出して、抱きしめたい。

だけど、そんなことをしたら、今のこの幸せな関係が、壊れてしまうかもしれないから。

「……のぼせるぞ、春。そろそろ上がるか」

「うん……そうだね」

真っ赤になった顔を隠しながら、慌ててお湯から立ち上がる。

湯気のなかの、嘘つきなふたり。

お互いに「いない」と答えたその胸の奥には、全く同じ、甘くて苦い恋心が隠されていた。