突然の提案に、アイスコーヒーを吹き出しそうになったのか、森下さんは慌てて口を押さえ、コースターにグラスを置いた。
「壁……?」
その一言を返すのが精一杯だったように感じた。
そんな空気を感じながらも、俺はこの未完成の閃きを伝えずにはいられなかった。
なぜなら、この仕事をしていると、いつもお客様の
「これ、出来るでしょ」
という思いと、
「施工上、ここはこうなってしまいます」
という現実の間にぶつかるからだ。
森下家で言えば、例えばダイニングとリビングの境。
壁を建てるスペースは、すんなり確保できる。
出窓の位置も、照明の位置も、扉の位置も、
「どうしても、ここはこうなります」
という制約はない。
そりゃ、全部壊してしまえば簡単だ。
でも、いかにお客様の負担を少なくして、理想に辿り着くか。
それが、俺の腕の見せどころだと思っている。
話しながらも、俺は壁や床にスケールを当て始めた。
癖なのか、スケールを当てながら壁をノックして、下地の位置を探していた。
スケールを当てるたび。
壁をノックするたび。
頭の中に、次から次へとアイデアが浮かんでくる。
普通、壁を作るなら天井まで塞ぐ壁を作るだろう。
もしくは、壁を1mほど出して、カウンターの腰壁にする。
でも、キッチンからの景色を考えると――
まず45cmほどの腰壁を作り、その先に1mほどの壁を立ち上げる。
キッチンから真っ直ぐ見た時、そこに壁がある。
ただ、最初からそこまで塞がない。
小さなカウンターを作って、その先からソファーの後ろの壁が少しだけ覗けるようにする。
そこにあるのは、あの穴の空いた壁。
もちろん、穴の空いた部分はきちんと直す。
ただ、その上の一枚だけ、色を変える。
「ここに、確かにあった」
そう分かる印のように。
景色として残してあげれば、毎日見るたびに思い出す必要はない。
思い出したい時に、思い出せればいい。
その方が、記憶は色褪せないんじゃないか。
そして、そのカウンターには手帳を置いてほしいと思っていた。
今まで出窓の上にあった手帳を、そこへ引っ越す。
キッチンから見える景色を変えてあげないと。
きっと、前に進めないんじゃないか――。
そんな思いを胸に、俺はいつの間にか、つい熱く語ってしまっていた。
森下さんは、そんな俺の話をずっと黙って聞いてくれていた。
そして――
その思いに、ゆっくりとアンサーを返してくれた。
「原澤さん……」
「壁……?」
その一言を返すのが精一杯だったように感じた。
そんな空気を感じながらも、俺はこの未完成の閃きを伝えずにはいられなかった。
なぜなら、この仕事をしていると、いつもお客様の
「これ、出来るでしょ」
という思いと、
「施工上、ここはこうなってしまいます」
という現実の間にぶつかるからだ。
森下家で言えば、例えばダイニングとリビングの境。
壁を建てるスペースは、すんなり確保できる。
出窓の位置も、照明の位置も、扉の位置も、
「どうしても、ここはこうなります」
という制約はない。
そりゃ、全部壊してしまえば簡単だ。
でも、いかにお客様の負担を少なくして、理想に辿り着くか。
それが、俺の腕の見せどころだと思っている。
話しながらも、俺は壁や床にスケールを当て始めた。
癖なのか、スケールを当てながら壁をノックして、下地の位置を探していた。
スケールを当てるたび。
壁をノックするたび。
頭の中に、次から次へとアイデアが浮かんでくる。
普通、壁を作るなら天井まで塞ぐ壁を作るだろう。
もしくは、壁を1mほど出して、カウンターの腰壁にする。
でも、キッチンからの景色を考えると――
まず45cmほどの腰壁を作り、その先に1mほどの壁を立ち上げる。
キッチンから真っ直ぐ見た時、そこに壁がある。
ただ、最初からそこまで塞がない。
小さなカウンターを作って、その先からソファーの後ろの壁が少しだけ覗けるようにする。
そこにあるのは、あの穴の空いた壁。
もちろん、穴の空いた部分はきちんと直す。
ただ、その上の一枚だけ、色を変える。
「ここに、確かにあった」
そう分かる印のように。
景色として残してあげれば、毎日見るたびに思い出す必要はない。
思い出したい時に、思い出せればいい。
その方が、記憶は色褪せないんじゃないか。
そして、そのカウンターには手帳を置いてほしいと思っていた。
今まで出窓の上にあった手帳を、そこへ引っ越す。
キッチンから見える景色を変えてあげないと。
きっと、前に進めないんじゃないか――。
そんな思いを胸に、俺はいつの間にか、つい熱く語ってしまっていた。
森下さんは、そんな俺の話をずっと黙って聞いてくれていた。
そして――
その思いに、ゆっくりとアンサーを返してくれた。
「原澤さん……」



