見積もりには書けないもの

森下さんらしくない、ごつめのレザーの手帳がそこにあったからだ。

……らしくないって、たいして森下さんのことを知らないくせに。

そう突っ込みを入れたくなるだろう。

でも、確かにそれは男性っぽさを感じさせるものだった。

これまで森下さんから感じていた女性らしさからは、少し想像しにくい。

厚みのあるオリーブグリーンの一枚革。

高さも幅も30〜40センチほどはありそうな大きさで、それを折り畳み、革紐がぐるっと一周回されている。

折り畳まれた状態では15センチほどの筒状にも見える。

出窓に無造作に置かれているのに、そこにしっかりとした存在感を漂わせていた。

勝手に「らしさ」を決めつけるのは良くない。

でも、もしこれが森下さんの私物なら――

こんな一面もあるんだ。

そんな発見が少し嬉しかった。

そして何より……

俺自身、レザーが好きだった。

数年前までレザークラフトをしていたこともあって、

「それ、良いな」

という気持ちの方が先に立っていたのかもしれない。

気づけば、俺の口が勝手に開いていた。

『その手帳って……森下さんの、です?』

「あっ」

森下さんは、少し恥ずかしそうに答えた。

『そうなんです……私、アンティークなものと革製品が好きで』

え……。

俺も。

ドンピシャな趣味のパスを受けて、真っ先にその言葉が頭をよぎった。

そして、その瞬間にはもう、勝手に口から出ていた。

『俺もです』

すると森下さんが、少し嬉しそうに笑った。

『だと思った』

一瞬、意味が分からなかった。

『だって、原澤さんの名刺入れ。自分で作ったやつかなって、私すぐ気づいたもん』

気づいたもん。

……気づいたもん。

なんだろう。

その一言で、さっきまであった距離が、一瞬にして縮まったような気がした。

浮かれているわけじゃない。

まして、何か特別な感情が芽生えたとか、そんなものでもない。

ただ――

仲間にばったり出会った感じ。

「分かる人」に出会えた嬉しさが、何より先に来た。

革が好き。

アンティークが好き。

そんな共通点だけで、さっきまでとは違う景色に見えてくる。

俺はふと、玄関にあった羊革のスリッパを思い出した。

……なるほど。

そういうことだったのか。

でも、それを口にするより先に、俺は笑いながら言った。

『っていうか……これ、俺も気づいてましたけどね』

自然と、仲間に返すようにアンサーしていた。