作業が終わった。
いつも以上に丁寧に、細かくチェックしながら作業していた気がする。
それでも、終わってしまった。
午前十一時を少しまわっていた。
「お疲れ様っ」
森下さんが、二杯目のアイスコーヒーを淹れてくれた。
ダイニングに腰を下ろし、アイスコーヒーを口に含む。
少し間を置いて、ごくりと飲み込んだ。
「お昼、食べてく時間あるの?」
森下さんが、不安げに俺を見る。
「良いの? なら是非」
俺は、寂しさを吹き消すように元気に答えた。
「じゃー、ちょっと休んで待っててね。すぐ用意するから」
キッチンから背中越しに、時折振り返りながら森下さんは俺を気にしていた。
俺もアイスコーヒーを見つめながら、時折目線を合わせ、それに答えた。
何かを紛らわすように、お互いたわいもない会話をした。
いつものように。
普通に戻ろうとしていたのかもしれない。
でも、その空気感は紛れもない事実として、そこにあった。
ただ俺は、終わりを受け入れられそうになかった。
何度も口に出そうになった。
もう少し、ここにいたい。
もう少し、あなたと話していたい。
でも、理性という一線。
現実という壁。
その二つが、わずかながらに勝っていた。
料理が運ばれてきた。
アジフライ定食。
もう……おしゃれな定食屋さんレベルだ。
よく見ると衣に砕いたナッツがまぶしてあり、その横の白い小さなカップには、自家製のソースが入っていた。
見た目ですでにやられた俺は、勢いよくアジにかぶりついた。
「いただきます!」
手を合わせたその手には、すでに箸が引っ掛けてある。
手を下ろす流れのまま、そのままアジを掴み、口に入れた。
もう。
もう、これ以上加点を増やさないでくれ。
「美味しい」
より先に、その言葉が浮かんだ。
それから森下さんを見つめて伝えた。
「めっちゃ美味いよ……」
少し間を置いて、
「過去一のアジフライかも」
お世辞ではなく、本当に過去一のアジフライだった。
「またまた〜」
満更でもない顔で笑った森下さんが、急に表情を変えた。
そして、口を開いた。
「これも……原澤さんに食べて欲しかったんだ」
その声は、さっきまでとは少し違っていた。
「なんだろう……もっと……」
森下さんは言葉を探すように、一度息を飲んだ。
「もっと色んな事、知って欲しいし……」
少しだけ俯いて、
「もっと知りたいって思っちゃうの」
箸を置いた。
壁を見つめながら、声を詰まらせているようだった。
俺は何も言えなかった。
森下さんが、静かに続けた。
「わたしだって、わかってるよ」
一瞬、言葉が途切れた。
「壁が必要なのくらい……」
森下さんの頬を、
一粒の涙が、
溢れ落ちた。
いつも以上に丁寧に、細かくチェックしながら作業していた気がする。
それでも、終わってしまった。
午前十一時を少しまわっていた。
「お疲れ様っ」
森下さんが、二杯目のアイスコーヒーを淹れてくれた。
ダイニングに腰を下ろし、アイスコーヒーを口に含む。
少し間を置いて、ごくりと飲み込んだ。
「お昼、食べてく時間あるの?」
森下さんが、不安げに俺を見る。
「良いの? なら是非」
俺は、寂しさを吹き消すように元気に答えた。
「じゃー、ちょっと休んで待っててね。すぐ用意するから」
キッチンから背中越しに、時折振り返りながら森下さんは俺を気にしていた。
俺もアイスコーヒーを見つめながら、時折目線を合わせ、それに答えた。
何かを紛らわすように、お互いたわいもない会話をした。
いつものように。
普通に戻ろうとしていたのかもしれない。
でも、その空気感は紛れもない事実として、そこにあった。
ただ俺は、終わりを受け入れられそうになかった。
何度も口に出そうになった。
もう少し、ここにいたい。
もう少し、あなたと話していたい。
でも、理性という一線。
現実という壁。
その二つが、わずかながらに勝っていた。
料理が運ばれてきた。
アジフライ定食。
もう……おしゃれな定食屋さんレベルだ。
よく見ると衣に砕いたナッツがまぶしてあり、その横の白い小さなカップには、自家製のソースが入っていた。
見た目ですでにやられた俺は、勢いよくアジにかぶりついた。
「いただきます!」
手を合わせたその手には、すでに箸が引っ掛けてある。
手を下ろす流れのまま、そのままアジを掴み、口に入れた。
もう。
もう、これ以上加点を増やさないでくれ。
「美味しい」
より先に、その言葉が浮かんだ。
それから森下さんを見つめて伝えた。
「めっちゃ美味いよ……」
少し間を置いて、
「過去一のアジフライかも」
お世辞ではなく、本当に過去一のアジフライだった。
「またまた〜」
満更でもない顔で笑った森下さんが、急に表情を変えた。
そして、口を開いた。
「これも……原澤さんに食べて欲しかったんだ」
その声は、さっきまでとは少し違っていた。
「なんだろう……もっと……」
森下さんは言葉を探すように、一度息を飲んだ。
「もっと色んな事、知って欲しいし……」
少しだけ俯いて、
「もっと知りたいって思っちゃうの」
箸を置いた。
壁を見つめながら、声を詰まらせているようだった。
俺は何も言えなかった。
森下さんが、静かに続けた。
「わたしだって、わかってるよ」
一瞬、言葉が途切れた。
「壁が必要なのくらい……」
森下さんの頬を、
一粒の涙が、
溢れ落ちた。



