見積もりには書けないもの

午前十一時四十五分頃。

「大山さんっ、見切り良ければお昼にしましょうか?」

大工さんに限らず、乗っている時の職人たちは、こっちから声を掛けなければ止まらない。

「自分でここまでやったらお昼」と目標を決めて、そこを終えるまで進める人もいる。

ただ、俺の立場は少し違う。

埃が舞うため、ダイニングやキッチンの方まで養生をしてある。

もちろん、冷蔵庫など必要なものは使えるように配慮している。

森下さんにも、

「もしかしたら料理とかしづらいかもしれませんので、何でも遠慮なく声掛けてください」

と伝えてある。

俺は在宅工事の場合、施主様のお昼やトイレ、普段の生活スタイル。

そういうところへの配慮も大切にしている。

まぁ……当たり前だよな。

大山さんはいつもお弁当だ。

道具を片付け、お昼に入ってもらった。

大山さんの車は敷地内に停めさせてもらい、俺の車は家の前の公園を挟んだ反対側にある、公園の無料駐車場に停めてある。

部屋を片付け、二階にいる森下さんに下から声を掛けた。

すると森下さんが、

「ご苦労様〜」

と言いながら階段を降りてきた。

「お昼、どうするの?」

俺が聞こうとしていたセリフを、先に言われた。

いや……

作れないだろうから、ほか弁でも買って来ようか?

そう言おうと思っていた。

「えー、ありがとう!」

少し間を置いて、

「なら、一緒に行きたいな」

そう言って微笑んだ。

子猫にしか見えない森下さんを、思わず抱きしめたくなった。

……いや。

ほんとに、そんなことは出来ないのは分かっている。

ただ、路頭に迷っている子猫が道路をフラフラしていたら、無意識に抱き上げるだろう。

不純じゃないんだ。

この感情は。

純粋に、ただ純粋に、

守ってあげたい。

その気持ちの延長線なんだ。

そう言い聞かせてみた。

けれど……

好きだと自分で認めてしまった以上、そんな言い訳は何の意味も持たない。

ただ、これは行動に移すな。

言葉には出すな。

仕事に集中しろ。

俺は何度も自分に言い聞かせた。

ただ、森下さんのお昼もある。

これはちゃんと説明のつく行動だ。

そう自分に言い聞かせ、車へと向かった。

幸い、大山さんは食事を終えて昼寝をしていた。

見つからずに済んだ。

駐車場に着き、助手席のドアを開ける。

木陰の下にあったからか、灼熱の車内というほどではない。

それでも暑い。

俺はすぐにエンジンをかけ、車内を冷やした。

すると森下さんが、助手席に座りながら言った。

「初めて原澤さんの車、乗ったね」

そして少し照れたように笑いながら、

「なんか……デートみたい」

そう言って微笑んだ。

俺は、その森下さんを見つめてしまっていた。