見積もりには書けないもの

「いただきます!」

一口食べて、思わず声が出た。

「美味しい……」

そして、また一口。

「本当に、どれも美味しい……」

感想が、口から溢れ出ていた。

俺、セロリ好きだ。

セロリが好きだったんだ……。

そう思っていると、森下さんが教えてくれた。

「この料理、息子の好きなメニューなんです」

「だから原澤さんにも食べてもらいたくて」

そう言って、少し笑った。

「息子はセロリ嫌いだったんですよ」

「どうにか好き嫌いをなくそうと、たどり着いたのがこれなんです」

そして、鶏大根スープを見ながら続けた。

「これは私が母から学んだ味」

「これは……私の思い出の味かな」

料理を通して、森下さんをより好きになっていた。

恋とかじゃない。

俺は、こういう人が――

こういう人が、人として好きなんだ。

頭の中で何度も言い聞かせていた。

でも、果たして自分がどこまで理解できているのかは、自分でもよく分からなかった。

食事をしながら、たくさんの話をした。

考えてから話すことは、やっぱりなかった。

知りたい。

聞きたい。

伝えたい。

そんな気持ちが、自然と言葉になって、耳を傾けていた。

気がつけば、美味しくておかわりまでしていた。

食後のコーヒーも、やっぱり美味い。

満たされてんな……俺。

そんなことを思った。

頭の中は、もう酸味で満たされていた。

いや……

もしかしたら、もう酸味をアクセントとして感じなくなっているのかもしれない。

酸味そのものを、甘味や旨味へと化学変化させてしまっているようだった。

話が弾む中でも、お互いにリフォームの話を混ぜ始める。

今を正当化するように。

正常運転に戻すように。

仕事の話なら、大丈夫。

仕事の話なら、ここにいてもいい。

そんなふうに、お互いが自分たちを納得させているようにも感じた。

同じ気持ちなのかな……。

俺は、少しだけ森下さんを見つめてしまっていた。