弾け跳ぶアセロラ



 今日のホームルームには運命がかかっている。それは、校外学習の班決め。

 絶対に茉菜と一緒になりますように⋯⋯じゃないと喋る相手が。神様、お願いします!

 教室にはピリッとした空気が流れている。

 貧乏ゆすりしてる奴、椅子をギシギシといわせてる奴が、今日はやたらと多い。

「はい、じゃあクジで校外学習の班決めしまーす。1人ずつ前に来てクジ引いてー」

「うわ、4班かよ」
「1班ラッキー」

 喜んだり、残念がったり。みんなの声を聞けば聞くほど心臓がバクバクする。

 ついに来た。アタシの順番。

 祈りながらクジをそっと引いて、席に着く。クジを開こうとしたとき、ニヤニヤした茉菜が近付いてきた。

「お!由加梨、班どこだったのよ」

「アタシは⋯⋯2班!茉菜は?」

「ワタシはねぇー」

 引いたクジを、茉菜がゆっくりと開く。

「⋯⋯」

「3班ね」

「そんなぁあああ」

 ショックのあまり力が抜けて、持っていたクジがヒラリと落ちる。それなのに茉菜は、人の気も知らないで笑ったまま。

「イイじゃないのよ!他の人とも関わるチャンスよ。まっ、頑張ってちょうだーい」

 まだ笑ったままの茉菜。そんな茉菜の後ろから、こっちを見ているエノキ野郎。

「なに?」

 少し早足で向かってきた瑞嶋が、クジを見せてきた。しかもゼロ距離で。

「⋯⋯俺、由加梨と一緒の班」

「近い!瑞嶋、申し訳ないけどアタシは今、絶賛絶望中なの。なにヘラヘラしてんだよ」

「そりゃあヒーローと一緒になれたからよね?瑞嶋チャン」

 瑞嶋は何度も頷いて、自分の席に戻っていく。ヒーローって、完全にイジってんなアイツら。

「はい!じゃあ班を発表していきまーす。1班〜〜の6人です。次、2班は岡田、加藤、世良、中園、瑞嶋の5人です。そして3班は〜」


「 終 わ っ た 」


 よりにもよって個性派揃い。やっぱり神様は存在しないのか。

 
 
 岡田智樹(おかだともき)は、休み時間にいつも本を読んでニヤニヤしている。申し訳ないけど気持ち悪い。できたら喋りたくない。
 
 加藤(かとう)ちほは、すごく控えめな子なのに急に毒を吐く。アタシにも毒が来そうで怖い。できたら喋りたくない。

 中園満(なかぞのみつる)は、多分ボンボン?多分。そのせいか余計な一言が多い。できたら喋りたくない。

 瑞嶋航平は、未知。


 
「これで全員どこの班か分かったと思うので、席移動してくださーい」
 
 先生の掛け声で一気にみんなが移動していくなか、アタシはとぼとぼと2班の席に向かった。

「班ごとに座ったら、まずはリーダーと副リーダーを決めてください。決まったら私に報告するようにー」

 そう言われ、集まった顔ぶれを見ながら座った。
 
「⋯⋯」

 誰も喋り始めない2班。それぞれが下を向いたり、遠くを見たりしている。よし、そのままアタシも黙っとこ。

 まだ誰も口を開かない。

「⋯⋯」

 アタシは大きく息を吸って、フゥーッと吐く。そして、開きたくない口を無理やり開いた。

「はい、じゃあリーダー誰やる?中園は?向いてそうじゃん」

 中園なら⋯⋯。

「えー僕ヤダよ。そういう世良さんがやったら?」

「はぁ!いつも生意気なことばっか言ってんのに?いくじなしが」

 ダメだった。

「あ!ちほちゃーん、ちほちゃんはリーダーどうかな?」

「私はちょっと、遠慮したいかな。意味を感じないし」

「そんな⋯⋯」

 ダメだった。

「岡田!リーダー決めてるときに本読むってありえないんですけど?岡田くーん?先生にチクろっと」

「それだけは!か、勘弁してください⋯⋯」
 
 謝る岡田の横で、本を覗いた瑞嶋がそのまま読み始めた。

「瑞嶋!アンタまで何読んでんの!」

「いや、気になって⋯⋯そしたら岡田君、今は転生して、勇者になっちゃったから忙しいみたい」

「は?」

「み、瑞嶋クン!恥ずかしいだろ。読むなよ」

「よし!じゃあ、リーダーは勇者の岡田に決定!」
 
 岡田の目に狙いを定め、力強く指をさす。

「異議あり!僕は世良さんがいいと思います。だってもう、ちゃんとまわしてるし」
 
 余計な一言をブチ込んでくる中園。その一言で班の全員が力いっぱい拍手している。
 
「いや、待ってよ⋯⋯」

 アタシに向けた拍手の圧がすごすぎる。

 ⋯⋯負けた。

「はいはい。わかりましたよ。ならアタシやりまーす。じゃあ副リーダーならやってもいいって人ー?」

「僕やっ」
 
 中園が手を挙げかけた。

 そのとき。

「俺、やります!⋯⋯あ」

 すかさず手を上げた瑞嶋は、キョロキョロと見回している。

「もう瑞嶋逃げらんないから、副リーダー決定!」

 でも、自分から立候補するなんて。
 
「瑞嶋やるじゃん!」

「由加梨こそ、なんだかんだ最初からリーダーみたいだった」

 今、瑞嶋に褒められた?

「え?そうかな⋯⋯」

 そう言いながらアタシは、髪の毛先を少し引っ張る。

「でも酷いなー由加梨は。俺のこと、エノキ野郎って呼んでたんだもんね」

 突然の暴露に、思わず髪を強く引っ張ってしまった。

「痛っ⋯⋯な、なんでそのこと」

「マドンナさんがニコニコしながら話してくれたんだ。俺、由加梨のことヒーローだと思ってたのになー。悲しい。傷ついた」

 アタシから顔をそむけてしまった瑞嶋。

 茉菜のヤツなんでバラすんだ。許さん。
 
「そ、それは瑞嶋が色白で、長くてヒョロっとしてて、その、前髪で目も隠れてるし?全部良い意味で?じゃなくて⋯⋯謝ります。ご、ごめんなさい」

 変な言い訳をするアタシを、横から覗き込む。

「傷ついたなんて、嘘だよ?」

 瑞嶋はニンマリと笑った。その表情に腹が立つ。
 
 よくよく考えたらアタシは今、からかわれてる?やっぱりコイツ、距離感バグってんな。

「み ず し ま !アタシをからかうな!身の程知らずが」

 
 クスクスと笑い声があちこちから聞こえてくる。2班だけじゃなく、クラスのみんなからも見られていた。

 最近になって、いや、瑞嶋と喋るようになってから笑われることが増えた気がする。

 良いのか、悪いのか。

 でもなぜか少しだけ、ほんの少し、校外学習が楽しみになってきた。

 ペンをクルクル回して、プリントに書く。

 『リーダー 世良由加梨』

 書いたあと、2班のメンバーを改めて見る。

 ⋯⋯クソ、後戻りできないのか。

 アタシは、無意識に消しゴムを握りしめていた。