弾け跳ぶアセロラ

 アタシの100本目は――目の前にいるエノキ野郎に奪われた。
 



 

「ね茉菜(まな)聞いて!今日アセロラジュース飲んだら100本目なんだけど」

「ハイハイ。そりゃあ1日に2本飲む日もあるんだから100本すぐいくわよ。ホンッと由加梨(ゆかり)ったら、そんなに飲んだって色白になったりしないわよ?」

 茉菜は呆れてるけど、欠かさず飲んで溜まったキャップはアタシだけの勲章。

「そんな目的で飲んでないっての。まぁ色々。それに褐色の肌だって魅力的だし!」

「どうかしらね〜。ワタシはてっきり幼馴染の誰かさん絡みだと思ったけど」

 そう言って、アタシの耳下で跳ねた毛先を整えながら茉菜は目を細めた。

「誰かさんって!とりあえずアセロラジュース買いにいってくる」

「焦んなくたって、売り切れないでしょ」

 何か言われた気がしたけど終礼後、自動販売機へ駆け込んだ。
 
 が、しかし。

「え、アセロラジュース売り切れっ!?」

 アタシの声に反応してエノキ野郎は振り向いた。

「ハァ、ハァ⋯⋯あ!売り切れ?す、すみません。世良(せら)さん⋯⋯コレ、よかったら⋯⋯」
 
 エノキ野郎は肩を大きく上下に揺らし、持っていたアセロラジュースを渡してきた。近くで見ると思ったよりも背が高い。
 
「あ、気にしないで!買ったのはエノ⋯⋯瑞嶋(みずしま)なんだから飲みなよ!」

「いや、でも」
 
 ⋯⋯あっっっぶねぇええ!エノキ野郎って言うとこだった⋯⋯。

「ホントにいいって!」
 
「で、でも100本目⋯⋯!」
 
 アタシは大きな声を出した瑞嶋にびっくりして、さらに見つめてしまった。

 それから色白の肌はアセロラジュースと同じくらい赤くなって、うつむいた。

「それ聞こえてたんかいっ!たまたま今日飲んだら100本目ってだけ。気にせず飲みなよ」

 前髪で隠れている目をさらに手で隠した瑞嶋。そのときアタシはクラスの自己紹介を思い出した。

「瑞嶋、こ、航平(こうへい)です。仲良くなりたいです!せ⋯⋯じゃなくて、ら⋯⋯じゃなくて、みんなと!です」
 
 その時も赤くなって手で顔を隠していた。

 パチ、パチ、途切れる拍手⋯⋯口がポカンと開いたみんなの表情⋯⋯もうあれから1ヶ月。

「⋯⋯」

「瑞嶋ってアセロラジュースとか飲むんだ。意外。みんなと仲良くなりたいんでしょ?敬語、辞めたら」

少しだけ見える口元が緩んだ。

「⋯⋯」

「ん?」

 次はギュッと口元が固くなり、大きく息を吸い込んだ。

「⋯⋯ありがとう由加梨!」

「へ?」

 由加梨⋯⋯?後ろを振り向いたが、誰もいない。
 
 アタシ⋯⋯!?だとしたら早い早い早い!タメ口を超えて下の名前!?距離の詰め方がかなりバグっている。正直引いた⋯⋯。
 
「⋯⋯あ」
 
 開いた口を手で押さえる瑞嶋は、カタカタと小さく震えていた。震えたいのはアタシだって同じ。
 
「瑞嶋って何か変わってんだね!まっ、良かった。じゃあまた明日」
 
 気まずくて訳わかんないことを言ってしまったアタシ。きっと顔はぎこちない。早く教室に戻ろうと振り返ったとき、呼び止める声が。

「ま、待って!」
 
 振り向くと、大事そうにアセロラジュースを抱えた瑞嶋。揺れた前髪の隙間からまっすぐとした目が見える。

 うまく言葉にはできないけど、ピカピカしていた。

「⋯⋯何?」

「ずっと言いたかったんだ!あの時、ゆ、ゆか、りが⋯⋯じゃあ」

 何かを明らかに言いかけて、段差につまずきながらそそくさと消えてしまった。

「危なっ⋯⋯なんだったんだ⋯⋯」
 
 モヤモヤしたまま教室に戻るとアタシを見て茉菜は驚いていた。

「ちょっと由加梨!アセロラジュースもしかして売り切れてたわけ?」

「エノキ野郎が最後の1本持ってった」

「由加梨またおせっかい焼いたんでしょ?⋯⋯って瑞嶋チャンと喋ったのぉおおおおおお!?」

「またって何?うん、初めて。しかもやっぱり変⋯⋯だった。喋ってて疲れるし、でも悪い奴じゃなさそう」

「ふーん。ニコニコで教室戻ってきたのよねぇ〜瑞嶋チャン!」

 ニタニタしながら、茉菜はアタシの頬に指を突く。

「何それ、やっぱ変な奴」

 結局アセロラジュースは飲めなかったので明日に――

 ⋯⋯って明日からゴールデンウィーク!

 100本目のアセロラジュースはお預けとなった。

 飲めないままゴールデンウィークはサッと過ぎていった。
 
 ゴールデンウィーク明け初日。

「由加梨ゴールデンウィークはどうだった?誰かさんと!」

「おはよう茉菜。別になんもないっての。普通!いつも通り!茉菜の方こそ彼氏とは?」

「ワタシはね、か」

 
 ――ガラガラガラッ

 
 強く開いた引き戸。

 そこには立ち尽くした瑞嶋が。

 教室中の視線が一気に集中する。



 
 「⋯⋯お、おはよう!由加梨!」

 「⋯⋯」

 「⋯⋯え」

 「「「⋯⋯えぇええええええええ!!!」」」

 教室がスピーカーになったみたいに、みんなの声が響き渡った。
 
 アタシは脊髄反射で顔をそらした!が、意味はなく視線はアタシの方へ突き刺さる⋯⋯。

 もう!なんでこうなんのよぉおおおおおおお!