君の声

 その一言に背中を押され、詩織は家を飛び出した——。

(樹くん……)
 詩織は駅に向かって駆け出した。
 会いたかった。彼のためだと言い聞かせて距離を置いてきた。それでも、樹を忘れた日は一日もなかった。早く会って、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
 信号の前で足を止める。
(早く……)
 点滅する信号を見つめながら、詩織は小さく息を吐いた。
 その時だった。
 道路へ一つのボールが転がっていく。そのあとを追うように、小さな男の子が車道へ飛び出した。
「危ない!!」
 誰かの悲鳴が響く。考えるより先に、詩織の体は動いていた。男の子を抱き寄せるように突き飛ばした、その瞬間——

 ——

「事故だ!」
「女の子が倒れてる!」
「誰か救急車を呼んで!」
 辺りは一瞬で騒然となった。詩織は腕の中に男の子をしっかりと抱きしめたまま、冷たいアスファルトに横たわっていた。男の子は泣きじゃくりながら、何度も詩織を呼んでいる。
(行かなきゃ……)
(樹、くん……)