季節はゆっくりと巡っていった。夏が過ぎ、秋を迎え、気づけば冬を迎えていた。年が明ける頃には、サークルで俺に任される仕事も少しずつ増えていた。
「佐野、この企画一緒にやってみないか?」
「悪い、この進行表、一回見てもらってもいい?」
先輩に声を掛けられる度、期待されていることが嬉しかった。みんなで一つのものを作り上げる高揚感は一度味わうとやめられない。
もっと力になりたい。もっといいイベントを作りたい。
そんな思いが少しずつ大きくなっていった。
大学二年になると、新しく後輩が入ってきた。
「佐野さん、これで合ってますか?」
「進行って何から覚えればいいですか?」
今度は教える立場になる。気づけば先輩にも後輩にも名前を呼ばれるようになっていた。
「佐野、悪い。当日の進行も頼める?」
「助かった。やっぱり佐野に任せると安心だ」
頼られることが嬉しかった。期待に応えたいと思った。夢中になればなるほど、一日は驚くほど早く過ぎていく。忙しい。だけど、楽しい。何より充実していた。
アルバイトも変わらず続けていた。ホールを任されるようになり、バイトリーダーとして店を回す日々。サークルが終わればバイト先に向かい、帰宅する頃には日付が変わっていることも珍しくなかった。
『ごめん、今日も少し電話遅くなる』
そんなメッセージを送る日が増えた。
『もしもし?』
「ごめん、遅くなった」
『ううん。お疲れさま』
「サークルの会議が長引いて」
『そっか』
「詩織は?」
『今日は音響実習だったよ』
少しだけ今日あったことを話す。ほんの十分ほどの電話。それだけでも、詩織の声を聞くと一日の疲れが少しだけ軽くなる。
『……樹くん』
「ん?」
『ちゃんと寝てる?』
思わず笑ってしまう。
「寝てる寝てる」
『ほんとに?』
「大丈夫」
少し間が空く。
『……無理しないでね』
「うん、分かってる」
『……樹くん』
「ん?」
『声、聞けてよかった』
「俺も」
『おやすみ』
「おやすみ」
俺は優しくそう言って電話を切った。
大学生活は思った以上に金がかかる。何より、誕生日やクリスマス。詩織を色んな場所へ連れて行きたかった。
高校生の頃にはできなかったデートを、大学生になったらたくさんしよう。そう思っていた。だから忙しいのは今だけ。俺達なら大丈夫。そう、自分に言い聞かせていた。
夜、スマホが震える。
『今日は電話できそう?』
詩織からのメッセージだった。俺はサークルの部室で資料を広げたまま返信を打つ。
『ごめん、まだ部室。終わったら電話する』
すぐに返事が来る。
『分かった。待ってるね』
その一文を見るだけで安心する。詩織は怒らない。ちゃんと待っていてくれる。
だから俺は気付かなかった。
電話の向こうで、詩織が何度も「今日はもう寝ようか」と言うようになったことも。
会う約束を決めても「ごめん、打ち合わせが入った」と断ることが少しずつ増えていたことも。
「埋め合わせするから」
俺はその言葉を何度も口にした。そのたびに詩織は笑って頷いてくれる。
会えなくても。電話の時間が短くても。
きっと詩織なら分かってくれる。
俺たちは高校の頃から付き合ってきたんだから。
「佐野、この企画一緒にやってみないか?」
「悪い、この進行表、一回見てもらってもいい?」
先輩に声を掛けられる度、期待されていることが嬉しかった。みんなで一つのものを作り上げる高揚感は一度味わうとやめられない。
もっと力になりたい。もっといいイベントを作りたい。
そんな思いが少しずつ大きくなっていった。
大学二年になると、新しく後輩が入ってきた。
「佐野さん、これで合ってますか?」
「進行って何から覚えればいいですか?」
今度は教える立場になる。気づけば先輩にも後輩にも名前を呼ばれるようになっていた。
「佐野、悪い。当日の進行も頼める?」
「助かった。やっぱり佐野に任せると安心だ」
頼られることが嬉しかった。期待に応えたいと思った。夢中になればなるほど、一日は驚くほど早く過ぎていく。忙しい。だけど、楽しい。何より充実していた。
アルバイトも変わらず続けていた。ホールを任されるようになり、バイトリーダーとして店を回す日々。サークルが終わればバイト先に向かい、帰宅する頃には日付が変わっていることも珍しくなかった。
『ごめん、今日も少し電話遅くなる』
そんなメッセージを送る日が増えた。
『もしもし?』
「ごめん、遅くなった」
『ううん。お疲れさま』
「サークルの会議が長引いて」
『そっか』
「詩織は?」
『今日は音響実習だったよ』
少しだけ今日あったことを話す。ほんの十分ほどの電話。それだけでも、詩織の声を聞くと一日の疲れが少しだけ軽くなる。
『……樹くん』
「ん?」
『ちゃんと寝てる?』
思わず笑ってしまう。
「寝てる寝てる」
『ほんとに?』
「大丈夫」
少し間が空く。
『……無理しないでね』
「うん、分かってる」
『……樹くん』
「ん?」
『声、聞けてよかった』
「俺も」
『おやすみ』
「おやすみ」
俺は優しくそう言って電話を切った。
大学生活は思った以上に金がかかる。何より、誕生日やクリスマス。詩織を色んな場所へ連れて行きたかった。
高校生の頃にはできなかったデートを、大学生になったらたくさんしよう。そう思っていた。だから忙しいのは今だけ。俺達なら大丈夫。そう、自分に言い聞かせていた。
夜、スマホが震える。
『今日は電話できそう?』
詩織からのメッセージだった。俺はサークルの部室で資料を広げたまま返信を打つ。
『ごめん、まだ部室。終わったら電話する』
すぐに返事が来る。
『分かった。待ってるね』
その一文を見るだけで安心する。詩織は怒らない。ちゃんと待っていてくれる。
だから俺は気付かなかった。
電話の向こうで、詩織が何度も「今日はもう寝ようか」と言うようになったことも。
会う約束を決めても「ごめん、打ち合わせが入った」と断ることが少しずつ増えていたことも。
「埋め合わせするから」
俺はその言葉を何度も口にした。そのたびに詩織は笑って頷いてくれる。
会えなくても。電話の時間が短くても。
きっと詩織なら分かってくれる。
俺たちは高校の頃から付き合ってきたんだから。
